本研究ではジャイロスコープを搭載した近赤外線カメラによるヘッドマウント型眼球運動追跡機能を活用し、頭位変換させた場合の眼球運動を測定し、その制御機構を解明すること、眼疾患・中枢疾患が眼球運動に及ぼす影響を神経生理学的に検討すること、を目標にしている。 健常者における頭位変換の影響を検討するため、眼科疾患や耳科疾患,神経疾患の既往がない若年健常ボランティア18名を対象として、座位及び左右側臥位の3頭位で水平性サッケード運動の頭位による変化を検討した。被験者は画面中心及び左右水平方向±12度に提示される指標へのサッケード課題を行った。眼球運動時の最大速度および視標到達時の瞳孔位置(指標位置割合)を解析した。座位における最大速度・視標到達割合は、内転・外転ともに左右眼における有意差を認めなかった。両側臥位では座位と比べ,重力の作用方向によらず内転外転ともに最大速度、視標到達割合が低下しており、最大速度および視標到達割合で頭位変換による影響が認められた。重力方向、反重力方向の差による違いを検討したところ、内転及び外転の最大速度および視標到達割合に差を認めなかった。以上の結果より健常者では水平性サッケード運動は重力に影響されない可能性が示唆された。この結果は第127回日本眼科学会総会で口頭発表された。 中枢疾患に起因する眼位制御機構(斜偏位)についても研究を行った。右小脳および延髄梗塞を生じた被験者を対象として座位と左右30度頭部傾斜時の9方向眼位を解析した。座位では右眼低位左眼高位の斜偏位が確認できた。右への頭部傾斜時には右眼低位左眼高位の斜偏位が軽減した一方、左への頭部傾斜時には大きな変化はみられず、頭位変換による斜偏位への影響が認められた。頭位変換による眼球運動の定量化が可能になることで、今後の眼球中心座標系、頭部中心座標系などの定量的評価およびその理解に役立つ可能性が示唆された。
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