<研究の目的>外界からの光情報を感知する網膜において、視覚機能の低下に相関する視細胞リボンシナプスの異所性局在のメカニズムを詳細に解析し、網膜変性疾患の原因解明や治療法開発に貢献する。プレシナプスタンパク質CAST/ELKSの欠損マウスでは、リボンシナプスの異所性局在が観察され、また電子顕微鏡の3次元立体再構築法によってリボンシナプス・双極細胞・水平細胞が構築するTriad構造が変性し、視機能に影響していることが分かってきた。本研究では、その作用機序をより詳細に解明する。 <網膜特異的なCAST/ELKS欠損マウスの解析>本研究では、CASTを特異的に欠損させるCAST floxマウスを作製した。このマウスでは、CAST遺伝子のエクソン14をはさむ形でloxP配列が組み込まれており、Cre組み換え酵素によってフレームシフトが起こり、不完全なCASTが翻訳されてくる。このCAST floxマウスを、ファミリータンパク質であるELKS floxマウスと交配させCAST/ELKS dfloxマウスを作製し、Creマウスの系統と交配させることで、網膜特異的、あるいは水平細胞特異的なCAST/ELKS欠損マウスを作製した。ウェスタンブロッティング法でCASTやELKSの発現が低下していることを確認したが、リボンシナプスの異所性局在は見られず、視細胞や水平細胞に発現しているCASTの欠損は異所性シナプスの直接的な要因ではないことが示唆された。 <成熟した網膜におけるCAST欠損と網膜変性に関する解析>一方、アデノ随伴ウィルスベクターでCreを発現させ、成熟した視細胞のシナプスにおいてCASTを急性的に欠損させると、視細胞の変性が起きることが分かった。これらの結果から、形成されたシナプスにおいて、CASTは視細胞からのシナプス伝達やその維持に重要な役割を担っていることが分かった。
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