研究課題/領域番号 |
20K09794
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
横井 則彦 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員教授 (60191491)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 涙液油層 / マイボーム腺脂質 / ゴマ油 / 涙液各層の相互作用 / 界面化学 |
研究実績の概要 |
マイボーム腺は、非極性と極性の脂質からなる涙液油層の供給源となるため、マイボーム腺機能不全(MGD)では、涙液油層に異常が生じて涙液層の安定性が低下し、ドライアイが引き起こされる。研究代表者は、MGDの治療として、非極性脂質が豊富な植物油の補充を考え、これまで、研究協力者と連携して、植物油の中でもゴマ油に注目して研究を進めて来た。ゴマ油は、一価不飽和脂肪酸(オレイン酸を40%含む)と多価不飽和脂肪酸(リノール酸を42%含む)を含み、抗炎症作用や抗酸化作用を有する利点もある。これまでの基礎的研究で、ゴマ油がマイボーム腺脂質層の非極性脂質層を補完し、その弾性特性を高めることを見出してきており、MGDの治療に役立つ可能性を見いだしてきた。そこで、2023年度は、研究協力者との連携のもと、非極性脂質としてのゴマ油、極性脂質類似の脂質として、ヒマシ油、ステアリン酸ポリオキシル40、メントール)を含み、さらに、ムチン類似分子としてPVPを含む既存の点眼液と健常なマイボーム腺脂質、あるいは、MGDの異常なマイボーム腺脂質との相互作用をin vitro(ラングミュアトラフで脂質膜の粘弾性特性を調べ、ブリュースター角顕微鏡で、脂質膜を観察)およびin vivo(インターフェロメーターで涙液油層を観察)で検討した。その結果、in vitroの実験系では、この点眼液を加えた脂質膜では、MGDの脂質膜の脆弱さが解消され、その安定性と連続的な分布を健常な脂質膜と同様なレベルまで回復することが明らかにされ、in vivoでも涙液油層の厚みと伸展が点眼後30分以上まで、増強することが確かめられた。一方、もう一つの研究として行っている非侵襲的涙液層動態解析法の研究では、深層学習の一手法であるsemantic segmenationとビデオケラトグラフィーを用いたドライアイのサブタイプ分類で、正解率が80%を越えるまでになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度までに、研究代表者は、研究協力者であるGeorgiev博士の協力のもと、植物油であるゴマ油とマイボーム腺脂質との相互作用の研究に取り組み、ゴマ油がマイボーム腺脂質に対して補完的な相互作用を示す可能性を見いだしてきた。2023年度も、Georgiev博士とのリアルでの交流が十分に行えない中、とオンラインミーティングや電子メールでのやり取りを行いながら、議論を重ね、これまでの研究をさらに発展させることができた。2023年度は、2022年度までに得た知見をもとに、非極性脂質としてゴマ油を含む既存の市販点眼液と健常なマイボーム腺脂質、あるいは、マイボーム腺機能不全(MGD)に起因する異常なマイボーム腺脂質との相互作用をin vitroで検討し、この点眼液を加えると、MGDの脂質膜の安定性と連続的な分布が、健常なマイボーム腺脂質レベルにまで回復することが示され、in vivoでも同様の結果を得ることができた。一方、非侵襲的涙液層動態解析法の研究では、眼表面の層別診断法に基づくドライアイのサブタイプ診断をフルオレセインを用いて行って来たが、深層学習の一手法であるsemantic segmenationとビデオケラトグラフィーを用いることで、非侵襲的な眼表面の層別診断法が行える可能性が見出されるとともに、これを用いたドライアイのサブタイプ分類の正解率が80%を越えるようになったことが確認された。また、以上の各成果を論文にまとめることもできた。最終年度は、両研究をさらに推し進め、涙液油層機能についての知見を深めながら、涙液油層機能を維持する生理活性脂質の応用をめざした基礎研究と臨床基盤の確立のために最終的なまとめを行いたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでの研究のまとめとして、研究協力者の協力のもと涙液中の内因性、外因性のさまざまな分子がマイボーム腺脂質/涙液油層の構造や粘弾性特性に及ぼす影響をさらに検討してゆくとともに、それらの検討結果を考慮に入れながら、涙液油層の粘弾性特性や動態特性を決定する脂質分子の候補の検索に、研究をさらに進めてゆきたいと考えている。また、涙液油層が涙液層の安定性を決定するメカニズムについてさらに研究を進め、それらを総括してゆきたい。一方、2020~2023年度を通じて、手がかりが得られた涙液油層動態に基づく、新しい非侵襲的涙液層動態解析法の開発についてもさらに研究を進め、涙液層の形成や破壊における涙液油層のin vivo での役割を明らかにしてゆきたい。本研究から得られるin vitro、in vivoの研究成果は、ドライアイの病態解析を今後さらに進めてゆく上で役立つとともに、涙液油層の本質的機能を深く知ることにつながると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で研究協力者との議論が十分に行えなかった経緯があり、次年度に延長により使用する額が生じた。コロナも収束し、次年度は、最終年度として、これまでの研究を総括し、研究協力者とも十分に議論を重ねて、これまでの研究を総括する予定である。論文投稿費用、追加研究の物品費、旅費、その他に、助成金を使用する計画である。
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