研究課題
本研究課題は、高齢者の健康寿命やQOLの低下を脅かす転倒・転落のリスク要因に関連する視覚機能を明らかにし、視覚の観点からの転倒・転落予防対策の提案を目標としている。本研究では、視覚の入力(視力や屈折、調節、等)、統合(両眼視機能)、出力(眼球運動)機能の下位項目の観点から、歩行や日常動作の遂行の基盤となる立位姿勢保持に及ぼす影響および相互作用を検討し、視覚機能の観点から転倒・転落アセスメントを試みるものである。これまで、高齢者において、垂直方向の滑動性追従眼球運動負荷は重心動揺を増大させ、姿勢を不安定にさせる一要因として見出した。2023年度は、立位姿勢保持の安定化における視線位置が果たす役割について、床面条件(安定/不安定)、眼球運動負荷条件で検討した。床面からの体性感覚入力の遮断条件や、垂直眼球運動負荷条件において、下方への視線配置で重心動揺が減少することが明らかとなり、姿勢安定化戦略としての下方視の重要性を見出した。また、日常生活での「見え方」の実態が姿勢安定性に及ぼす影響を検討するために、アイフレイル高齢者群とロバスト群とで、関連する視機能要因と姿勢安定性との関連性について検討した。アイフレイル高齢者では、日常視下でのコントラスト感度が低下することにより、姿勢制御に対する視覚依存の度合が低くなっていることが明らかとなった。本研究により、高齢者の転倒・転落につながる立位姿勢保持に影響を及ぼす視覚要因として、垂直方向の滑動性追従眼球運動や日常視下でのコントラスト感度の低下、アイフレイルの有無が挙げられ、転倒・転落アセスメントにつながる可能性を見出した。また、姿勢安定化戦略としての視線位置の重要性について明らかにすることができた。本研究課題を通じて、視覚の観点からの転倒・転落予防対策に資する基礎的知見を得ることができたと考える。
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日本視能訓練士協会誌
巻: 53 ページ: 103~109
10.4263/jorthoptic.53F114