研究課題
我が国における高齢者の失明においては、糖尿病網膜症、滲出型加齢黄斑変性といった、眼内病的血管新生病が上位を占めている。両者における病的新生血管は構造が脆弱であり、血管透過性が高く、浮腫や出血を生じやすい。血管外滲出物貯留は、慢性炎症と網膜下の線維化を生じ、重篤な視力障害の原因となる。我々は、生理活性ペプチド、アドレノメデュリン(AM)と、その受容体活性調節タンパクであるRAMP2のノックアウトマウスが、共に、血管形成異常と浮腫のため胎生致死となることから、AM-RAMP2系が血管の正常な発生に必須であること、さらにAM-RAMP2系が、生後の網膜血管の発達にも関連していることを明らかとしてきた。一方、AMのファミリーとして新たに同定されたインターメディンは、アドレノメデュリン2(AM2)とも呼ばれ、AMに類似した構造を有し、眼内にも存在するがその機能は不明である。本研究では、AM-RAMP2系およびAM2-RAMP2系の眼内における病態生理学的意義、特に網膜血管バリア維持機能、抗炎症作用、抗線維化作用とそのメカニズムを解明し、網膜浮腫や線維化に対する新たな治療法に展開することを目的とする。
2: おおむね順調に進展している
酸素誘導網膜症(OIR)モデルにおいて、低酸素環境でAMの遺伝子発現の亢進が確認された。高酸素環境から大気下環境に戻された直後(P12)には、野生型マウス(WT)、AM、RAMP2ヘテロノックアウトマウス(AM+/-、RAMP2+/-)で網膜血管網密度に違いは見られなかったが、P17においてAM+/-で網膜の病的新生血管、無血管野、低酸素領域のいずれも減少していた。またP17において、qPCRにてVEGF、eNOSの遺伝子発現低下を、ウェスタンブロッティングでVEGF発現の低下、p-eNOS/eNOS 比の低下を認めた。一方、RAMP2+/-でも無血管野と低酸素領域の減少を認めた。血管内皮細胞における解析では、網脈絡膜血管内皮細胞で、AM添加は濃度依存的に遊走・増殖を増強することが確認された。RAMP2を過剰発現させた血管内皮細胞では、AM添加時にコントロールの血管内皮細胞に比較して細胞遊走・増殖が増加していた。またヒト網膜血管内皮細胞においてもAMによって内皮細胞の遊走・増殖の増強が確認された。AMをターゲットにした治療応用を検討するため、OIRモデルに対して抗AM抗体の眼内投与を行ったところ、網膜の病的新生血管が抑制された。
①レーザー誘導脈絡膜血管新生、線維化モデルの検討野生型および、AM、AM2、RAMP2ノックアウトマウスの片眼視神経乳頭周囲網膜にアルゴンレーザー照射を行い、Bruch膜を穿破する。7日後、21日後に、麻酔下でFITC-Dextranを心臓から灌流し、脈絡膜新生血管を評価する。網膜、脈絡膜フラットマウント標本を作成し、レーザー瘢痕に対する線維化面積および脈絡膜新生血管の面積の評価を行う。さらに、網膜血管バリア機能、炎症、線維化に関連する遺伝子の発現をリアルタイムPCR法にて定量評価する。タンパク質発現についてもウェスタンブロット法にて解析を行う。さらに各種抗体を用いた免疫組織染色を行い、網膜、脈絡膜の形態および質的変化を評価する。②AM、AM2によるEndMT, EMTの制御の検討網膜線維化には、内皮間葉転換(EndMT)や、上皮間葉転換(EMT)の関与が示唆されている。そこで、網脈絡膜様細胞株RF/6A135細胞、網膜血管内皮細胞株TR-iBRB2細胞、網膜色素上皮細胞株ARPE-19細胞などを、TGF-β、高血糖、AGE 、H2O2などで刺激し、アクチンの重合状態、タイトジャンクション、アドヘレンスジャンクションタンパクの発現と分布を観察する、さらにαSMAなどの間葉系マーカーの発現を評価することで、EndMTあるいはEMTの状態を評価する。AMやAM2の投与により、これらがどの様な影響を受けるか評価する。さらにVEGF単独あるいはAMやAM2との共投与を行い、血管透過性、タイトジャンクション、アドヘレンスジャンクション形成に与える影響を検討する。
糖尿病網膜症モデルの検討が、次年度以降に持ち越されたため。次年度に持ち越した予算は、Kimbaマウス、Akitaマウス、Akimbaマウスなどの糖尿病モデルマウスの網膜症の評価に使用予定である。
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