研究課題/領域番号 |
20K09805
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
木村 和博 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (60335255)
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研究分担者 |
林 謙一郎 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (90238105)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | nAMD / RPE / RAR |
研究実績の概要 |
滲出型加齢黄斑変性(nAMD)では、網脈絡膜に存在する新生血管からの出血や滲出性変化の結果、視機能低下をきたす疾患である。治療薬として抗VEGF薬は第一選択薬となっている。しかしながら、再発、遷延化さらには、二次的に形成された網膜下の線維化が視力予後に多大な影響をもたらす。網膜下線維組織形成の病態において網膜色素上皮細胞(RPE)は起点として働き、網膜下での局所的な慢性炎症が線維化に大きく寄与する。補体は、生体防御で重要な働きをする免疫系の因子である。nAMDのドルーゼン内にC3を始めとした補体因子群の局在認めること、nAMD患者血清中補体因子群濃度と網膜下線維組織形成との相関なども報告されている。本研究では、線維化のプロセスでのRPEにおける炎症関連因子である補体因子群との相互作用を解明することを目的としている。これまで、線維化の中心的な役割を果たすTGF-β2がマウスRPEにおける線維化の重要なプロセスである細胞収縮、上皮間葉系移行を誘導し、この反応に対して、レチノイン酸受容体を介するシグナルが関与することを明らかにしてきた。そこで、まずマウスRPEを使用し、TGF-β2よる炎症関連因子である補体因子群の発現をRT-PCRにて検討した。結果として、補体因子C3、C4の発現には影響を認めなかったが、C5がTGF-β2依存性に発現上昇することを見出だした。続いて、補体調節因子のCFH, CFBについてもその発現への作用を同様に検討した。結果として、FRAR-αアゴニストの細胞収縮、上皮間葉系移行の分子機序について検討した。TGF-β2はこれら補体調節因子の発現には影響を及ぼさなかった。これらの結果から、補体因子のC5がRPEを起点とした慢性炎症の寄与し、網膜下線維組織形成に関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
滲出型加齢黄斑変性(nAMD)は、網脈絡膜に存在する新生血管とそれに伴う増殖性変化を本体とする疾患であるが、二次的に形成された網膜下の線維性瘢痕組織が視力予後に多大な影響をもたらす。新生血管退縮には第一選択薬の抗VEGF薬は効果がある。しかしながら、再発、遷延化の問題に加え、二次的に形成された網膜下の線維化による視力低下への新たな治療法の開発が切望されている。網膜色素上皮細胞(RPE)は網膜下線維組織形成の病態において起点として働く。さらに、網膜下での局所的な慢性炎症が線維化に大きく寄与する。免疫系因子の補体は、nAMDのドルーゼン内にC3を始めとした補体因子群の局在認めるなどAMDとの関連が示唆されている。本研究では、RPEにおける炎症関連因子である補体因子群の線維化プロセスへの関係性の解明を目的としている。独自に開発したコラーゲンゲルを用いたマウスRPE三次元初期培養系を用いた。線維化の重要なプロセスである細胞収縮、上皮間葉系移行の中心的な役割を果たすTGF-β2を用いることで、このアッセイ系でEMT誘導できる。そこで、TGF-β2よる炎症関連因子である補体因子群の発現をRT-PCRにて検討した。結果として、補体因子C3、C4などの発現には影響を認めなかったが、C5においてはTGF-β2依存性に発現上昇することを見出だした。続いて、補体調節因子のCFH, CFBについてもその発現への作用を同様に検討したが、明らかな発現変化は認めなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、RPEにおける炎症関連因子である補体因子群の線維化プロセスへの関係性の解明を目的としている。独自に開発したコラーゲンゲルを用いたマウスRPE三次元初期培養系で、TGF-β2による炎症関連因子である補体因子群の発現をRT-PCRにて検討した。結果として、補体因子C5においてはTGF-β2依存性に発現上昇することを見出だした。C5の発現制御について、主要なシグナル経路を含めて検討していく。さらに、これまで研究代表者らはレチノイン受容体(RAR)経路がRPEにおける上皮間葉系移行そして網膜下線維化に関与していることを明らかにしてきた。そこで、RAR経路とのクロストークを検討し、新たな線維化の分子メカニズムを解明する。RAR-α、γアゴニストについてはEMT抑制に関与する特異的な化合物を既に見出しており、これらを用いてさらにC5やCFH等の補体調節因子発現への影響も検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
補体因子群特にC5については、今後その発現制御機構を検討していく。定量的かつ網羅的解析を行うため、マルチプレックスシステム及び次世代シークエンサーを用いてC5の発現機序を明らかにしていくことから、次年度においても研究費の使用額が生じた。実験の進行具合から、未使用額が生じた。この未使用額については、前述の解析のため令和3年度の解析費用に併せて使用する。
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