研究実績の概要 |
代表的な緑内障手術である線維柱帯切除術はマイトマイシンC(MMC)などの線維芽細胞増殖抑制薬の併用によって濾過胞と眼圧下降が維持されている。しかし濾過胞菲薄化から濾過胞感染など重篤な術後副作用が問題となっている。われわれはイヌ緑内障手術モデル眼においてマルチキナーゼ阻害薬であるレゴラフェニブ術後点眼によりMMC併用と同等の濾過胞維持効果と眼圧下降が得られ、より虚血や菲薄化の少ない濾過胞が形成されることを示した(Nemoto E, Kojima S, et al. Int J Mol Sci. 2019 Dec 20;21(1):63. doi: 10.3390/ijms21010063. )。 次にヒト結膜線維芽細胞(HconFs)を用いて検討を行い、レゴラフェニブ によりHConFsの増殖を効果的に抑制するのは2mM付近であることが示された。そしてTGF-β2により増加したαSMA陽性細胞、PCNA陽性細胞、 vimentin 陽性細胞は2mMのレゴラフェニブ投与により有意に抑制された。すなわちレゴラフェニブは線維芽細胞の増殖と筋線維芽細胞への形質転換を抑制する可能性が示唆された。さらに、HconFsをレゴラフェニブ2mMを処置した群と対照群とに分けてTGF-β2を加え、 Smad2, p-Smad2, Smad3, p-Smad3, p38, p-p38, Akt, p-Akt, Erk, p-Erk のような細胞増殖に関連するサイトカインの発現を検討した。TGF-β反応後、リン酸化された各因子の発現が抑制されていた。特に5分以内の反応ではSmad経路よりもno-Smad経路の因子がより抑制されることが示されている。さらに scratch assay を用いてHconFsをレゴラフェニブ処置することによって細胞の増殖だけでなく遊走も抑制されることが示された。
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