研究実績の概要 |
緑内障は我が国の社会的失明の第一位原因疾患であり、40歳以上における有病率は5%を超える。一旦障害された視野の回復は困難であり早期発見、早期治療が管理上の要となっている。しかし、緑内障性視野障害は自覚に乏しく、病期が重度になるまで気づかれないため潜在患者は約90%にものぼると推定されている。さらに緑内障と診断されても無自覚であるため、治療に対するアドヒアランスの問題が指摘されている。今回我々は、タブレット端末を用い自分の視野異常を簡便に自覚させる新しい視野自己チェックツールの開発を目標とした。 2020年度は、測定プログラムの基本設計を行った。タブレット端末において視野の各4象限に1個ずつ計4個の検査視標を同時提示し、視野異常の自覚を促す手法を開発した。4個同時に提示する理由は、人が同時に視標を安定的に識別できる数が約4個までであること、補填現象を回避できること、検査中の固視が維持しやすいためである。本原理により10パターンの視標提示で計40点の測定点を短時間に評価できることが分かった。 2021年度は、1-3個の測定点を同時に呈示し視野異常部位が検出が可能なプログラムを作成し、少数の緑内障患者においてその有用性を検証した。 2022年度は48例の緑内障症例を対象に検討し、感度93.9%,特異度95.6%, AUC0.9の良好な結果を得た。平均検査時間は109.4±24.8秒であった。さらに4点同時刺激法にて自身の視野異常の自覚を促したところ、視野異常を自覚できない症例は49%から26.7%に減少した。 2023年度は、検査中の固視、頭位の安定性を確保する手法として、新たなソフトウエアを開発し、タブレットのカメラを用いても検査中の頭位、固視管理がおおむね可能となる手法の開発に着手した。タブレットという限られたリソースでも、視野検査に必須となる固視管理を確保できることが確認された。
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