研究課題/領域番号 |
20K09823
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩川 外史郎 東京大学, 医学部附属病院, 特任助教 (30638648)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 遺伝性網膜変性症 / エクソンスキッピング / 網膜色素上皮 / ゲノム編集技術 / ヒトiPS細胞 |
研究実績の概要 |
令和3年度の主な目標は、MYO7Aの標的エクソンに変異を持った細胞株の作製および機能評価であった。公共データベース(https://bravo.sph.umich.edu/freeze8/hg38/など)を参考に比較的高頻度のナンセンス変異が報告されていてかつ機能への影響が大きいことが予想されるエクソンを絞り込み、3番目のエクソンに焦点を当てた。エクソン3にナンセンス変異を持つ細胞内では、全長2215アミノ酸となるMYO7Aタンパク質のうち、30アミノ酸程度しか翻訳されないため、機能の著しい低下が予想され、エクソン3のスキッピングによる機能改善効果が期待される。まずは、エクソン3内でフレームシフトを引き起こす変異の導入を試みた。CRISPRdirect (https://crispr.dbcls.jp/)を利用して、エクソン3を標的とするgRNAを複数設計し、PX458 (Addgene)プラスミド内に適宜オリゴDNAを挿入し、gRNA、Cas9, EGFPを発現するプラスミドを作製した。ヒトiPSCにプラスミドをトランスフェクション後、プラスミドを取り込んだEGFP陽性細胞をcell sorterによって分取し、低密度で細胞を播種してクローニングを行った。得られたクローンからゲノムDNAを抽出し、MYO7Aのエクソン3の配列を確認したところ、両アレルそれぞれにフレームシフトを引き起こす変異を持った複合ヘテロ接合性変異を有するクローンを見出した。ヒトiPSCにおけるMYO7Aタンパク質の喪失の確認をウェスタンブロットで試みたが、明確な結果は得られず、検出条件の最適化が必要と考えられた。現在未分化なヒトiPSCから網膜色素上皮(RPE)へ分化誘導させており、RPE様細胞が出現したら、前年度に構築した、RPEの貪食能の評価系を用いて機能評価を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度では、標的エクソンに変異を持った細胞株は樹立できたが、機能評価までには至らなかったため、進捗状況はやや遅れていると言える。クローニング中に細胞が死滅してしまったり、得られたクローンに期待された変異が導入されていなかったりといった理由で、細胞株の樹立に時間がかかってしまったが、変異株を樹立できたので、RPEへの分化を誘導中で機能評価を進めていきたい。 令和2年度にRPEの機能評価系として、蛍光ビーズを用いた貪食能の評価系を構築した。CHMをモデル遺伝子として、機能を喪失すると考えられる変異株と、変異株に対してエクソンスキップを誘導した細胞を用いて機能評価を行ったところ、酸化ストレス条件下で変異株の貪食能の低下と、エクソンスキップによる機能の改善が認められた。令和3年度では、その分子メカニズムを明らかにするために、CHMによるRABタンパク質のプレニル化状態の評価や、RABタンパク質の細胞内の局在を調べた。その結果、RABタンパク質全体のプレニル化状態は、変異株とスキップを誘導した細胞のどちらも同程度であったが、特定のRABタンパク質の局在は違いが見られ、スキップの誘導による影響が示された。MYO7Aに関しても貪食能の評価系以外にも、MYO7Aの機能に基づいた評価系を構築し、スキップの影響を明らかにしたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
MYO7Aの変異株をRPEに分化させ、変異による影響を貪食能を中心に評価する。エクソン3のスキップの誘導に関しては、エクソン3の前後のイントロンをgRNAの標的とすることでエクソン3をゲノム上でdeletionし、スキップを誘導することを検討中である。効率的なスキップの誘導が確認できたら、当初はスキップ株のクローニングを予定していたが、令和3年度でクローニングに時間がかかってしまったので回避し、令和3年度に樹立した変異株をRPEへ分化させてからスキップを誘導し、MYO7Aのタンパク質レベルの評価やRPEの機能評価を行うことを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度の計画として、MYO7Aの変異株を樹立したのちにRPEへ分化させ機能評価を行うことを考えていたが、変異株のクローニングに時間がかかってしまい、機能評価まで行うことができなかった。そのため機能評価に必要な試薬類の経費を次年度使用額とした。
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