研究課題/領域番号 |
20K09825
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
堀田 喜裕 浜松医科大学, 医学部, 教授 (90173608)
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研究分担者 |
岩泉 守哉 浜松医科大学, 医学部, 助教 (60444361)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 難治性未診断疾患 / 希少眼疾患 / 遺伝子診断 |
研究実績の概要 |
令和4年度は、全エクソーム解析によって原因遺伝子が明らかにされたInherited retinal dystrophy(IRD)の小児の兄妹例を報告した。症例1(妹)の矯正視力は右 (0.2)、左 (0.3)、症例2(兄)の矯正視力は両眼 (0.3)であった。兄は12歳の頃から眼底に色素班を数カ所認めるが、妹は現在に至るまで色素沈着を認めない。兄妹は進行性の視野狭窄を示し、最終評価時の矯正視力は両眼とも(0.1)である。小児科医による診察では、身体的な問題は指摘されなかった。兄妹はやや身長が低いが、現在まで身長の伸びに異常は認められていない。 画像による詳細な骨格検査では、異常を認めなかった。兄妹には、NEK1遺伝子に複合ヘテロ接合性変異を検出し、2つの変異は、それぞれ父親と母親に由来していた。American College of Medical Genetics のガイドラインによると、二つのバリアントは病原性の可能性が高いと分類された。 軸性脊椎骨幹端異形成症(axial spondylometaphyseal dysplasia, axial SMD)は, 骨格と四肢骨近位部の骨幹端に異形成を認める骨系統疾患である。NEK1遺伝子(604588, 4q33) は、axial SMD と短肋骨多指症 (short rib polydactyly, SRPS) の原因遺伝子として知られている。 SRPS は、重度の骨格異形成および内臓機能障害と関連しており、周産期死亡につながることが多い。NEK1 遺伝子変異によるaxial SMDは、重度のIRDとも関連していると報告されている。しかし、今回経験した症例1と2の兄妹は、全身的な異常を合併せず、NEK1 遺伝子変異によって引き起こされるIRDという新しい表現型を示していると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
眼所見を有しながら、複数の医療機関を受診しても原因がわからず、長期にわたって様々な症状に悩まされることがある。これら患者は新規疾患だけではなく、報告数が極めて少ない希少眼疾患も含まれている。本研究はわが国の難治性未診断眼疾患患者に対して次世代シークエンサーを用いた遺伝子診断を行い、原因遺伝子を同定して新たな疾患概念を提唱すると共にその診断法の開発を行う事を目標とする。既報の原因遺伝子を同定した場合でもこれまでの報告とは異なる表現型を呈する症例であれば疾患概念を再考して診断法の改定を検討する。その為、本年度は以下の研究を実施した。 (1)症例収集:新型コロナウイルス感染症の流行の影響を少なからず受けたが、網膜ジストロフィ患者の新たな数症例から遺伝学的検査の承諾を得た。 (2)変異探索:わが国では2つ以上の臓器にまたがり、一元的に説明が出来ない他覚的所見を有し診断が困難な症例に対する「未診断疾患イニシアチブ(IRUD)」が発足している。IRUD研究により日本全国にIRUD拠点病院が配置され、未診断疾患症例の収集と遺伝子診断の成果が得られている。代表者の所属する浜松医科大学もIRUD拠点病院として認定され、症例を収集しているが、眼のみに所見を有する症例はIRUDの研究対象から外れている為、IRUD拠点病院ネットワークにより収集された眼科領域の未診断疾患に対しては本研究で遺伝子診断を行っている。 令和4年度は既に収集済みであった原因遺伝子が未同定の網膜ジストロフィを発症したInherited retinal dystrophy(IRD)2症例に対して発端者と両親の全エクソーム解析を実施した。結果として、今回経験した症例1と2の兄妹は、全身的な異常を合併せず、NEK1 遺伝子変異によって引き起こされるIRDという新しい表現型を示していると考える(詳細は研究実績の概要に記載)。
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今後の研究の推進方策 |
(1)症例収集:新型コロナ感染症対策が充実してきたので、今年度は積極的に患者の収取を行う。(倫理面への配慮)当該研究に関する遺伝子及び末梢血の収集にあたり、浜松医科大学の臨床研究倫理委員会(承認番号14-040)の承認を受けている。末梢血は、患者または保護者より提供を受ける。採血前に倫理委員会に提出している項目にしたがって研究について詳しく説明し、インフォームドコンセントを書面で得られたもののみを対象とする。 (2)変異探索:本年度までに診断できなかった症例に対して引き続き全エクソーム解析(WES)を実施する。Inherited retinal dystrophy(IRD)については、われわれの研究室でのパイプラインを用いてバリアントの探索を行う。診断に難渋したIRDに対しては、発端者と両親に対して全ゲノム解析を実施したので、バリアントを絞り込む。 (3)疾患概念の確立:すでに、CDK9遺伝子異常によるCHARGE様の潜性(劣性)遺伝疾患の疾患概念を確立し、NEK1遺伝子異常による全身所見を伴わない早発型網膜ジストロフィの兄妹例を報告することができた。引き続き新規疾患や報告数が少ない希少眼疾患症例より原因遺伝子が同定出来た場合、疾患概念の提唱を行う。 (4)WESで原因遺伝子を特定できなかったIRD症例に対し全ゲノムシークエンスを実施したので、原因遺伝子変異を検討する。RetNetに掲載されている遺伝性網膜、視神経疾患の原因遺伝子について、一塩基置換や小さな欠失や挿入に加え、CanvasやManta、TEMP2を用いたコピー数異常や構造異常の検出、SpliceAIやSpliceRover等によるスプライシング異常の予測を行い検討する。構造異常が疑われた症例については、de novo assemblyにて切断点の配列を決定し、PCRで確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症により、研究成果発表の制限があったこと、患者の受診に制限がかかって十分な検体の収集ができなかったことによる。次年度は新型コロナウイルス感染症に対する対策が充実してきたことから、次年度に使用可能と考える。
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