研究実績の概要 |
近視進行に強膜小胞体ストレスの関与を申請者は明らかにしているが、小胞体ストレスがどのように眼軸伸長に関与するのかどうかを検証するのが2020年度の目的であった。これに対して、小胞体ストレスによって活性化されるIRE1 (Inositol Response Element 1) 、ATF6 (Activating Transcription Factor 6)、PERK (PKR-like endoplasmic reticulum kinase)の3つのセンサータンパク質から始まるUnfolding Protein Response経路の阻害剤の点眼投与を近視誘導期間中に行った。その結果、阻害剤の単剤投与ではむしろ近視を促進することがありこのことはUPR経路の抑制により他経路が代償的に活性化されて近視進行を促進したと考えられた。そこで2種混合投与試験を行ったところPERKとATF6経路の同時阻害によって近視進行が抑制され、この2経路が近視進行に関わることが示唆された。また2経路のアゴニストの点眼投与は近視進行を誘導した。またテノン嚢下に高濃度のAAVを投与することで強膜において遺伝子発現をON/OFFに方法を確立した。その方法を用いて、IRE1, PERK, ATF6をCRISPER/Cas9システムによりノックダウンするとPERKのノックダウンでは近視化が認められたのに対して、ATF6のノックダウンは近視化を抑制することが明らかとなった。ATF6阻害剤の点眼投与は非近視誘導眼においても近視が誘導された事実とATF6ノックダウン実験による近視進行抑制の事実との矛盾は今後の検討課題であるが、PERK, ATF6経路が近視進行に関与することが強く示唆される結果である。
|