研究実績の概要 |
2020年度は強膜小胞体ストレスが近視進行に関わることを多数の実験により明らかにし、薬理学的及び遺伝子工学的手法を用いて小胞体ストレスセンサーのうち、PERK経路、ATF6経路が近視進行に関わることを示した。 近視強膜ではコラーゲンを代表とする細胞外マトリックスのリモデリングが生じていることが知られており、それにより眼球の弾性・剛性が低下することで形態の変化につながると考えられている。2021年度はこの現象に強膜小胞体ストレスが関与しているかどうかの検証を行なった。マウスに発現している全43コラーゲン遺伝子の強膜における発現を近視誘導後に検証すると、コラーゲン1a1遺伝子の発現低下ならびにコラーゲン4a2, 4a3, 6a1, 6a2, 7a1, 8a1, 8a2, 11a2, 12a1, 15a1 , 18a1の発現増加が認められた。初代ヒト強膜線維芽細胞に小胞体ストレスを負荷し、その際の上記コラーゲン遺伝子の発現を検証したところ、コラーゲン1a1の発現低下ならびに4a3, 8a2, 11a2, 15a1の発現増加が認められたことから少なくともこれらの遺伝子群は小胞体ストレスによる発現制御がなされており、近視進行に関与すると考えられた。これらのコラーゲン遺伝子のLIMによる発現変化は近視進行を抑制する4-PBA点眼により抑制された。また、近視誘導によりコラーゲン線維の細小化がリモデリングの1表現系として生じるが、この細小化も4-PBA点眼により抑制された。以上のことから強膜小胞体ストレスは強膜リモデリングを介して近視進行に関与することが示唆された。
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