研究課題/領域番号 |
20K09835
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
横田 陽匡 日本大学, 医学部, 准教授 (60431417)
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研究分担者 |
中神 啓徳 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座教授 (20325369)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 糖尿病網膜症 / プロレニン / オートタキシン / 若年発症型糖尿病 / ペプチドワクチン |
研究実績の概要 |
糖尿病網膜症の新たな治療戦略を促進、すなわちこの分野におけるトランスレーショナルリサーチを加速させるために若年発症型糖尿病(MODY3)ブタモデルの有効性を検証してきた。出生直後から高血糖を呈し、共焦点顕微鏡による観察では、月齢4ヶ月で網膜毛細血管の密度が低下し、中間層、深層毛細血管網でより顕著になることを明らかにした。生後7ヶ月齢まで観察したが、経時的に悪化することも確認した。一方、日常の臨床で行う検眼鏡的検査、蛍光眼底造影では、いわゆる糖尿病網膜症と同じ所見は確認されなかった。今後、必要に応じて1年以上観察する必要があると思われた。 このMODY3ブタ2頭に対して、マウスで有効性が確認されたプロレニンワクチンを接種して共焦点顕微鏡で毛細血管網の観察を行った。するとMODY3ブタで観察された毛細血管網の密度の低下が明らかに抑制されていて、現在さらに2頭のMODY3ブタを追加して再現性の検討を行っている最中である。 さらにプロレニンのみならず、新たな標的分子を探索し、脂質メディエーターの合成酵素であるオートタキシンに対するペプチドワクチンを合成した。このオートタキシンワクチンを2型糖尿病マウスに接種したところ、2型糖尿病マウスで確認されるミュラーグリアを中心としたグリアの障害、神経血管連関の障害、神経機能の低下が有意に抑制された。また網膜内の水分調節に重要な役割を担っている水チャネルアクアポリン4の発現低下を抑制した。プロレニンワクチンは主にミクログリアを、オートタキシンワクチンはミュラーグリアに対して有効であることを証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究が概ね順調に進展している理由として、日本大学医学部の動物舎スタッフがブタの扱い、飼育経験が豊富であることが挙げられる。私は旭川医科大学に所属していたときに、糖尿病ブタを用いて実験を試みたことがあった。しかし全身麻酔をかけた際に、糖尿病ブタが悪性高熱を発症し、そのまま回復せずに即死した。私が日本大学医学部に赴任してきたのが2018年で、丸3年が経過した。この間糖尿病ブタを用いた実験を開始、継続しているが、これまでに実験手技に伴う不慮の死は一度も経験していない。日本大学医学部の専門スタッフが、糖尿病ブタの全身麻酔を実施してくれるお陰である。したがってこの事実からも、糖尿病網膜症のトランスレーショナルリサーチを加速を目指した本研究が、日大で行われることは非常に有用なことであると考える。 一方で、糖尿病網膜症の新しい治療法として、ペプチドワクチン技術を応用していることも進捗状況が概ね順調であることに寄与していると考えられる。ペプチドワクチンは標的分子の一部のアミノ酸配列を抗原とし、それをキャリア蛋白とコンジュゲートすることにより合成される。まずはこの分野の第一人者である中神教授と共同研究していることにより、抗原の至適化がスムースに行えていること、その配列の至適化に人工知能を応用していることも研究推進に寄与していると考えられる。さらにワクチン接種により重大な副作用などは観察されていないことから、安全性も同時に証明できている。
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今後の研究の推進方策 |
マウスを用いて糖尿病網膜症の予防となりうる標的分子を同定することが出来た。またブタ用に設計したプロレニンワクチンでMODY3ブタにおける網膜血管病変に対する抑制効果を証明できたことから、今後はプロレニンワクチンとオートタキシンワクチンの効果をMODY3ブタを用いた検討に絞っていく。同時にMODY3ブタの網膜病変を詳細に検討するためにグリア細胞におけるGFAPや水分子チャネルであるアクアポリン4の発現、神経節細胞のアポトーシスなどを組織学的に検討していく。具体的にはこれまで蓄積したMODY3ブタ網膜のパラフィン切片(1月齢、4月齢、7月齢)を用いて各種抗体を購入して組織学的検討を行う。我々は、最終的にはワクチンによる糖尿病網膜症の予防を目的としているが、より早期の臨床応用の足がかりとして、ワクチンによって産生された抗体が、直接的に進行した網膜症に対して治療効果を発揮することが証明できれば、ワクチンで懸念される安全性に関して除外することができると考えられる。もし予算的、時間的に余裕が生じれば、増殖症モデルとして多用される酸素誘発網膜新生血管モデルを作成し、IgG精製した抗体を直接硝子体腔内に注射して、注入した抗体が網膜新生血管や増殖組織を抑制するかを確認する。また当施設では加齢黄斑変性モデル作成のためのレーザーシステムを有していることから併せて産生抗体を硝子体注射することにより、増加の一途を辿っている加齢黄斑変性の効果を検討してみたい。
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