研究実績の概要 |
網膜神経細胞の修飾について、Dアミノ酸を指標に生理学的な測定を行った。開始初期にパッチクランプ測定関連装置を更新して記録環境を整備した結果、アカハライモリ網膜の神経細胞においてDグルタミンの細胞外投与時に電位依存性内向き電流の振幅が減少し、閾値付近の小さな刺激では活動電位が発生しなくなる現象が見られた。また同装置によりヒト網膜スライス標本や虹彩由来の神経分化誘導細胞などにおける電気生理学的研究成果も得られた。最終年度には、一過性の内向き電流を持つ三次ニューロン(神経節細胞)において、Dグルタミンの細胞内への投与により遅延整流性の外向き電流の有意な増加が記録できた。Dグルタミンは細胞内外いずれに蓄積した場合も光情報伝達系への抑制的な修飾効果が予想される。本研究課題のもう一つの測定法である、enzyme-linked fluorescent assay法によるグルタミン酸放出の測定では、投与を試みた試薬のうち一部の性ホルモンでグルタミン酸放出の変化が見られた。主目的のDアミノ酸による応答ではないが、ホルモンの濃度変化によって網膜での情報が修飾される可能性が示唆されたため、翌年度以降も進めた結果、最終年度にプロゲステロンが双極細胞と神経節細胞の間のグルタミン酸作動性シナプスの活性を増加させる成果が得られた(Ohkuma et. al., Effects of Progesterone and Other Gonadal Hormones on Glutamatergic Circuits in the Retina. J Nippon Med Sch. 2023)。さらに、種々の情報修飾物質の 個体レベルでの効果確認を目指し、高感度生体電位増幅器を用いて網膜電図の測定を試みている。こちらは本研究期間内で思わしい成果は得られなかったが、引き続き研究を進めていきたいと考えている。
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