研究課題
これまでの研究で我々は、増殖糖尿病網膜症(PDR)患者の硝子体液におけるhelper T (Th)17細胞関連サイトカイン、high-mobility group box-1 (HMGB1)およびオステオポンチン(OPN)の濃度が他の網膜疾患患者よりも有意に高いことを認めた.そこで我々はまずTh17細胞に着目して、糖尿病(DM)を自然発症するAkitaマウスとTh17細胞優位の分化誘導がみられるIFN-gamma欠損(GKO)マウスとを掛け合わせてAkita-GKOマウスを作成した.このAkita-GKOマウスはAkitaマウスよりも早期に糖尿病網膜症(DR)所見を呈することを報告した.本研究では、1)長期的にAkita-GKOマウスのDR所見を観察し、PDR様変化がみられるか、2)高血糖下でTh17細胞およびOPN産生T細胞へと分化したHMGB1反応性T細胞がDMの発症、DRの進行に関与しているのか、そして3)抗IL-17A抗体、抗HMGB1抗体、および抗OPN抗体の硝子体内投与によりAkita-GKOマウスのDRの進行を抑制できるか否かについて検討する.
2: おおむね順調に進展している
長期的にAkita-GKOマウスを観察すると、Akita-GKOマウスのTh17細胞優位の分化誘導の個体差が大きいことがわかった。また、16週齢のAkita-GKOマウスは全身的にはTh17細胞優位の所見がみられる場合であっても眼内にPDR所見はみられなかった。このことより、さらに長期的な観察を試みた。しかし、多くのAkita-GKOマウスは24週齢までに死亡することがわかった。以上からAkita-GKOマウスを実験マウスとして使用すること一旦中止して、DRモデルとして広く使用されているストレプトゾトシン誘発糖尿病マウス(STZマウス)で解析を試みた。12週齢のSTZマウスのDR所見の解析の結果、網膜の菲薄化およびアセルラーキャピラリーの増加が12週齢のAkita-GKOマウスと同程度にみられた。STZマウスの網膜におけるIL-17およびOPNの濃度を解析したところ、IL-17の濃度に有意差はみられなかったが、OPNの濃度は野生型マウスよりも有意差をもって上昇していた。そこで我々はOPNのDR病態への関与を調べるために、抗OPN抗体をSTZマウスの硝子体内に投与して、エバンスブルー色素により血管透過性を評価した。その結果、STZマウスに抗OPN抗体投与例は対照薬投与例と比較して血管透過性亢進が抑制されていた。以上からOPNはDRにおいて血管透過性に関与することが示唆された。
Akita-GKOマウスは個体差が大きいこと、長期の飼育が困難であること、さらに同齢のSTZマウスとの比較でDRの程度に有意がみられないことから、今後はSTZマウスで研究を進めていく。これまでの結果からOPNが初期DRに関与していることが示唆される。以上をふまえて、今後はIL-17ではなくOPNを中心に以下の3点の検討を行っていく。① OPNがDRにおけるバリア破綻に関わっているのかを内皮細胞を用いて検討を行う。②DRにおいてOPN産生に関わる細胞の検討を行う。③ 初期のDRにおいてOPNが網膜で上昇しており、血管透過性亢進に関与しているが、この現象がVEGF産生増加に働くのかあるいはVEGFと独立したものであるかを検討していく。
今年度は、モデルマウスの確立に多大な時間を要したため、十分な解析を行うことができなかった.今後はSTZマウスで研究を進め、次年度使用額でsingle cell RNA sequencingを行う予定である.
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