研究実績の概要 |
申請者らは前駆脂肪細胞にex vivoで治療用遺伝子を導入し、それを患者に移植することで治療用タンパクの体内における持続的な補充を可能とする独自の治療研究を進めている。再生医療等安全性確保法の下、希少疾患である家族性LCAT欠損症患者における有効性が示されつつある。この治療原理の汎用性を飛躍的に高めるには、移植細胞が体内で高率に生存・生着する新たな原理の確立が喫緊の課題である。本研究では、移植後生体内で生存した細胞を取り出し、移植前の細胞と比較することで、生存している細胞がなぜ移植後の環境で生存・生着し得たのかを解明し、細胞の移植環境適応性に基づく新たな移植効率向上に関連した責任遺伝子を同定、さらにその修飾・制御により前駆脂肪細胞移植効率を向上させる新たな原理の確立を目的とする。 R2年度は、中空糸技術を用いて、LCAT遺伝子導入ヒト前脂肪細胞を包埋し、B6マウスへの移植実験を実施し、移植前後で発現の変化している遺伝子をRNAseq解析に基づいて30種類程度同定し、移植後の生着に寄与している遺伝子候補とした。 R2年度の解析は、1ロットの初代培養前駆脂肪細胞の解析であったことから、複数の初代培養前駆脂肪細胞を解析し、1つの転写制御因子遺伝子に絞り込んだ。 R4年度は当該転写制御因子遺伝子を発現するレンチウイルスベクター、一方でノックダウンするためのshRNA発現レンチウイルスベクターを構築し、初代培養前駆脂肪細胞に導入、細胞レベルで、どのような影響が出るかをRNAseq解析で検討した。その結果、同転写制御因子の発現レベルに応じて、Rap1、MAPK, PI3K-AKT等の細胞の生存に寄与すると考えられるシグナル伝達経路を修飾することが示唆された。動物実験での検証には至らなかったが、今後この研究で得られた知見に基づいて、細胞移植後の生着を向上するための基盤を確立したい。
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