研究実績の概要 |
1。足趾標本を用いた細菌の感染経路解明の研究:骨髄炎を合併した糖尿病性足潰瘍患者から、足趾切断術の際に摘出した12趾に対しグラム染色を施行し、11趾で染色された菌体を確認し、うち10趾は骨端での菌体の存在を確認した。骨端部は成長期の急性化膿性骨髄炎の好発部位として知られているが、成長軟骨板の消失した成人では、どこにでも骨髄炎が生じると考えられている。成人においても骨端部が骨髄炎発症の好発部位であることを示すために今後、より多くの症例でのグラム染色を行い、またグラム染色での明瞭な菌体の証明方法を検討し、施行する予定である。2.足趾の腱におけるAGEの局在の研究:足趾潰瘍で断端形成術を施行した38例38趾(うち糖尿病患者25例)に対し、抗AGE抗体(ab23722, Abcam, Cambridge, UK)用いた足趾腱の免疫組織化学染色を行い、34趾で腱束の間の結合組織内に存在する腱の栄養血管内皮細胞にAGEの沈着を認めた。糖尿患者の方が非糖尿病患者よりAGEを認める割合が高かった(92 vs 84.6%)。これまで腱の脆弱性の原因は、腱への直接的なAGEの蓄積が原因と言われてきたが、我々の仮説通りAGEによる微小血管障害が原因であれば、これまでの定説を覆す可能性がある。AGEは糖尿病だけでなく加齢によっても増加し、AGEによる腱、筋障害は高齢者の肩腱盤断裂や転倒の原因とされている。我々の予測が正しいとすると、糖尿病患者だけでなく加齢によるAGE研究にも大きく影響を与えることになる。今回の症例は高齢者が多く、加齢によってもAGEは増加するため、差が少なかった可能性が高い。症例数を増やし年齢的検討も加えて検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糖尿病性足潰瘍または重症下肢虚血による足趾潰瘍により足趾切断術を行った患者64人(糖尿病48人、非糖尿病、26人、69.4±11才)から得た64趾の腱に対し、抗AGE抗体(ab23722, Abcam, Cambridge, UK)を用いて免疫組織化学染色を行った。胃癌、乳癌に対して行うHER2法に準じて、染色強度と陽性細胞の割合から4stage(0, 1+, 2+, 3+)で評価を行い、糖尿病患者と非糖尿病患者で比較検討した。AGE陽性(stage 1+, 2+, 3+)の患者の割合を69歳以下と70歳以上で比べたところ、69歳以下では非糖尿病患者66.7%、糖尿病患者80.7%であり、70歳以上では非糖尿病患者81.8%、糖尿病患者92.3%といずれも糖尿病患者において陽性率が高い傾向にあった(p=0.5153)。AGEsの沈着は、腱組織内ではなく、腱束の間のloose connective tissue内に存在する血管内皮細胞に生じていた。
|