研究課題/領域番号 |
20K09877
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研究機関 | 明海大学 |
研究代表者 |
佐藤 元 明海大学, 歯学部, 講師 (10432452)
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研究分担者 |
野崎 一徳 大阪大学, 歯学部附属病院, 准教授 (40379110)
三浦 治郎 大阪大学, 歯学部附属病院, 助教 (70437383)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 味覚 / 温度感覚 / ロテノン / 鼻腔内投与 |
研究実績の概要 |
本研究は、農薬ロテノンを1週間鼻腔内投与し作成されたパーキンソン病モデルマウスに生じる苦味障害の発症機構を解明することを目的とする。今年度は、ロテノン鼻腔内投与マウスに発症した苦味障害が、味覚以外の要因で引き起こされたか否かについて明らかにするために、1週間ロテノン鼻腔内投与マウスの苦味溶液の飲水行動に影響を与えると想定される、唾液分泌量、飲水量および血中亜鉛濃度の変化についてそれぞれ検討した。その結果、全身麻酔下でのピロカルピン腹腔内投与により引き起こされる唾液分泌量に有意な変化を認めなかった。また、23時間絶水したロテノン鼻腔内投与マウスにおける1時間および24時間の飲水量に有意な変化を認めなかった。さらに、ロテノン鼻腔内投与マウスの血中亜鉛量は正常範囲内であった。次に、ロテノン鼻腔内投与マウスにおける冷温感受性の増大が苦味障害を誘発した可能性について検討した。各濃度 (1-2.3 mM)のメントール溶液に対する嗜好性試験 (Brief-access test)を行い、メントールに対する感受性を評価した。その結果、ロテノン鼻腔内投与マウスでは高濃度メントール提示時のリック数が有意に増大し、高濃度メントールに対する忌避行動/感受性が大きく減弱した。この結果は、ロテノン鼻腔内投与マウスにおける冷温感受性の増大が苦味障害を誘発した可能性を棄却したが、口腔内の温度感覚異常が味覚障害とは別に生じているという新たな所見を与えた。以上のことから、今年度の結果は、ロテノン鼻腔内投与マウスで発症する味覚障害が味覚以外の要因ではなく、味覚伝導路そのものの障害である可能性を強く示唆した。今年度の研究成果は、パーキンソン病の味覚障害発症機構を解明する一助となり、その医学的/臨床的重要性や社会的意義は高いと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、先行実験で器質的変化が観察された味覚伝導路の1つである孤束核に、機能的な変化が生じるか否かについて、in vivo/in vitroの両研究手法を用いて検討する予定であった。今年度、すでに1週間ロテノン鼻腔内投与マウスの舌への味覚刺激に対する孤束核神経応答をin vivoで記録し始めている。また、細胞外記録法とともに、カルシウムイメージング法を用いてin vivo 同時記録ができる実験系を構築し実験を開始している。しかしながら、これまで本研究で明らかにしてきた行動実験の結果をまとめた論文の投稿過程で、いくつかの追加実験を急遽行なうことになったため、当初予定したin vitroでの研究が予定していた研究計画よりやや遅れている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は今年度と同様に、電気生理学的手法を用いて、1週間ロテノン鼻腔内投与マウスの孤束核における機能的な変化をin vivoおよびin vitro両観点から検討していく予定である。具体的には、ロテノン投与動物の舌への味覚刺激に応答する孤束核神経細胞における活動変化を細胞外記録法を用いて観察し、同時に神経/グリア細胞の活動変化をカルシウムイメージング法を用いて可視化する予定である。また、組織学的あるいは生化学的な手法を用いてその器質的な変化の有無についての詳細も併せて調べる予定である。さらに、ロテノン鼻腔内投与マウスの脳薄切標本に膜電位感受性色素を負荷し、孤束刺激により生じる孤束核の興奮伝播の時空間パターンを可視化する実験に着手する予定である。
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