研究課題/領域番号 |
20K09878
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
脇坂 聡 大阪大学, 歯学研究科, 教授 (40158598)
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研究分担者 |
乾 千珠子 (山本千珠子) 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (00419459)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 味覚障害 / 女性ホルモン |
研究実績の概要 |
近年味覚障害が増加傾向にあるが、その場合は味覚と一般体性感覚が統合した感覚障害である。味覚障害は2:3の割合で女性に多い疾患だが、性差の原因は未だ不明である。味覚と性差については、女性は男性より甘いものを好むと一般的にいわれており、成人男女について4基本味に対する閾値を調べると、塩味以外は女性のほうが男性より低く、敏感であるということがわかっている。動物実験でも雌性ラットのほうが雄性ラットよりも甘味嗜好性が高く、卵巣摘出雌性ラットでは甘味に対する嗜好性が低下するが、女性ホルモンを注射すると甘味に対する嗜好性が回復するという報告があり、女性ホルモンが甘味嗜好性に関係することを強く示唆している。本研究では、女性ホルモンが味覚受容に及ぼす影響を検討するとともに、味覚障害に対してもどのような影響があるかを、女性ホルモンの分泌量の異なる幼若期、思春期、成熟期、更年期の4ステージの雌性および雄性ラットを用い、低亜鉛飼料飼育による亜鉛欠乏性味覚障害モデル動物を作製し、性差による基本味に対する嗜好性の変化を行動学的に検討する。初年度は思春期(生後7週齢)の雌雄ラットで亜鉛欠乏性味覚障害モデル動物を作成し、味覚閾値及び認知機能を調べるため、短時間摂取行動テストと48時間二瓶選択嗜好テストを実施した。その結果、思春期では雄性よりも雌性ラットにおいて、低亜鉛状態による味覚異常、特に塩味に対する受容障害が生じやすいことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの我々の研究と同様に、低亜鉛飼料で4週間飼育することで亜鉛欠乏モデル動物を作製した。性ホルモンの分泌量が異なる幼若期、思春期、成熟期、更年期の4ライフステージのうち、最初の実験では、思春期(生後7週)の雄雌ラットに低亜鉛飼料を4週間与えた。正常動物の体重は性別に関わらず増加傾向を示すのに対し、低亜鉛飼料で飼養した動物の体重は、飼料呈示開始後1週間は増加したものの、その後、横這いとなった。低亜鉛飼料を与えられた動物の血中亜鉛濃度は正常動物と比べ減少していた。これらの動物の味覚閾値及び認知機能を調べるため、短時間摂取行動テストと48時間二瓶選択嗜好テストを実施した。短時間摂取行動テストにおいて、低亜鉛状態の雄性ラットは正常動物と比べ、高濃度の塩化ナトリウム溶液と塩酸溶液を有意に多く摂取した。一方、低亜鉛状態の雌性ラットは正常動物と比べ、高濃度の塩化ナトリウム溶液、高濃度のサッカリン溶液、低濃度の塩酸溶液、また低濃度の塩酸キニーネ溶液を多く摂取した。48時間二瓶選択嗜好テストでは、低亜鉛状態の雄性ラットの塩化ナトリウム溶液(0.3 M)に対する嗜好率が正常動物より有意に高かった。一方、低亜鉛状態の雌性ラットでは、塩化ナトリウム溶液(0.03, 0.3, 0.6 M)及び塩酸溶液(10 mM)に対する嗜好率が正常動物と比べ有意に高かった。これらの行動学的実験の結果から、雄性よりも雌性ラットにおいて、低亜鉛状態による味覚異常が生じやすいことが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
亜鉛欠乏モデルは、低亜鉛飼料による飼養開始時期によってその影響が異なると言われている。一般的に成長期に低亜鉛飼料で飼養した動物のほうが、重篤な症状を示すことが報告されている。我々の先行研究では、離乳後直ちに低亜鉛試料で飼養を開始した動物は、極度の体重減少や脱毛を示し、通常では忌避する苦味溶液を多く摂取した。このような重篤な症状が生じた原因の一つに、低亜鉛飼料とコントロール飼料は亜鉛だけでなく、その他の微量金属栄養素の含有量も異なっていたことが挙げられた。そこで、本研究では、亜鉛のみの含有量が異なる飼料を作製して用いた。本実験で、生後7週とある程度成熟した動物にこの低亜鉛飼料を与えると、体重増加はみられないものの著しい脱毛はみられなかった。このことから、成長時期における亜鉛欠乏の身体表出への影響の強さの違いを考慮したとしても、本実験の結果は、低亜鉛状態が味覚異常をもたらすという仮説を支持するものといえる。さらに本実験ではこの味覚異常の表出に性別が強く影響することが明らかとなった。今後、低亜鉛状態の開始時期を変えて味覚への影響を詳細に調べる。さらに、卵巣摘出ラットでの検討および卵巣摘出ラットに女性ホルモンを注射したラットでの解析を行い、味覚受容、味覚障害における女性ホルモンの役割の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により予定していた学会出席にともなう旅費の支出がなくなったため、少額の次年度使用額が生じた。それらは次年度は物品費として使用する予定である。
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