味覚異常の性別や年代による発症率の違いの原因を明らかにするために,幼若期(3週齢)、思春期(7週齢)、更年期(35週齢)、中高齢期(80週齢)の雌雄性ラットを低亜鉛飼料で4週間飼養した場合の味覚閾値および嗜好性を調べた。低亜鉛によって、幼少期、思春期では雌雄ラット共に苦味、塩味の閾値上昇がみられた。また、更年期、中高齢期では雌性ラットのみ塩味に対する閾値の上昇を示した。これらの結果から、雌性ラットは雄性ラットと比べ、週齢を通して低亜鉛による塩味感受性の変化を生じやすいことが明らかとなった。低亜鉛による塩味閾値上昇の機序を、1)味覚受容体、2)脳内情報伝達経路、3)女性ホルモンの観点から調べた。1)幼少期、思春期の低亜鉛の雄性ラットの舌前方の茸状乳頭の大きさは、通常飼料で飼養した雄性ラットと比べ有意に小さかった。また、思春期では茸状乳頭の数も減少していた。一方、雌性ラットでは低亜鉛でも茸状乳頭の数や形には変化がみられなかった。茸状乳頭の味蕾の味孔を走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ、低亜鉛状態の雌雄ラットに共通して味孔の位置がより深部にあり、味孔が小さくなる傾向がみられた。これらの結果から、低亜鉛の味覚受容体への作用は雌雄で異なる可能性が示された。2)低亜鉛状態の若齢期雌雄ラットの舌を高濃度塩味溶液で刺激した際の脳活動をFos様蛋白質を指標に調べた.味覚中継核である結合腕傍核、体液調整に関わる視索上核および視床下部室傍核における神経活動が低亜鉛によって低下することがわかった。さらに、3)低亜鉛雌性ラットの血中エストロゲン・プロゲステロン減少、女性ホルモン補充による高濃度塩味嗜好性の回復、卵巣摘出による高濃度塩味嗜好性上昇が見られた。以上の結果から、低亜鉛による受ける週齢に性差があり、またその機序は性別によってそれぞれ異なる機構がある可能性が示唆された。
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