研究課題/領域番号 |
20K09882
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
根津 顕弘 北海道医療大学, 歯学部, 准教授 (00305913)
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研究分担者 |
森田 貴雄 日本歯科大学, 新潟生命歯学部, 教授 (20326549)
細矢 明宏 北海道医療大学, 歯学部, 教授 (70350824)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 唾液分泌 / 代償性機能亢進 / 網羅的遺伝子解析 / 細胞内カルシウム応答 / 腺血流 |
研究実績の概要 |
唾液腺は片側が機能不全に陥ると残った唾液腺が代償性に肥大し、低下した唾液分泌を補っている。我々は生きた動物の唾液腺のCa2+応答と唾液分泌機能をin vivo機能解析法を用いて評価したところ、片側障害が残った唾液腺を「機能亢進腺」に誘導することを明らかにした。本課題では「片側唾液腺障害によって起こる唾液腺の代償性機能亢進を起こすしくみは何か?」を明らかにすることを目的とする。さらに得られた結果をもとに、薬物や遺伝子制御により人為的に「唾液が出やすくなる唾液腺」の誘導を試みる。 これまでに網羅的解析により変化が認められた57遺伝子のうち、結紮7および21日後の反対側顎下腺で発現変化する6遺伝子に加え、新たに2つの時間遺伝子の発現上昇が確認し、機能亢進発現の新たなマーカー遺伝子候補を見出した。 さらに唾液分泌と血流動態の関係について解析を行った。Ca2+と血流動態の同時測定を用いてアセチルコリン(ACh)の持続投与により顎下腺全体で見られるCa2+振動と血流振動が起こることを初めて明らかにした。また、このCa2+と血流振動の発生には自律神経系の調節よりも、血中の血管収縮物質の関与が大きいことを見出した。さらに水チャネル(AQP5)低発現ラットを用いた実験により、ACh刺激による唾液腺の血流上昇が安静時の唾液分泌の調節に大きな役割を果たすことを見出した(Akter MT et al. 2023)。我々は、機能亢進腺での唾液分泌亢進のしくみに血流動態亢進が関わっていると考え、現在代償性機能亢進における血流動態に関する検討中である。(研究協力者:MST Tahmina Akter、島谷真梨、郷賢治)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに我々は機能亢進腺におけるマーカー遺伝子を8つ(腫瘍抑制因子、インターフェロン遺伝子、消化酵素、上皮成長因子、時計遺伝子、水チャネル)を同定しているが、誘導初期(3日後)では使用可能なマーカーは2つ(消化酵素及び上皮成長因子)であった。機能亢進誘導シグナルを高精度に解析するためは、より早期に変動する新たな遺伝子を同定することが重要であり、残りの40遺伝子について解析中である。 また誘導初期(3日後)の顎下腺の腺房細胞と導管細胞における増殖マーカー(PCNA)変化を比較したところ、機能亢進誘導によって腺房細胞でPCNA陽性細胞数の有意な発現上昇が認められた。この結果は、片側障害により顎下腺の腺房細胞の増殖が誘導されていることを示唆している。 これらの研究と並行して、in vivo機能解析法を用いて生きたラットの顎下腺におけるCa2+応答と血流動態変化の同時測定を行い、ACh刺激による顎下腺のCa2+応答と血流動態との関係を解析した。この実験により、持続的なACh刺激は、顎下腺のCa2+と血流振動が起こすことを明らかにした。この発生には自律神経系の調節の関与は少なく、血液中の血管収縮物質の関与が重要であった。加えてAQP低発現ラットを用いた実験により、低濃度のACh刺激による唾液分泌には、AQP5発現量よりも血流動態が重要な役割を果たすことを明らかにした。また産生酵素や受容体発現量の解析により、この血流変動がアンジオテンシンⅡにより調節されている可能性が示された。唾液分泌と腺血流には密接な関係にあることから、今後は機能亢進腺での血流変動と唾液分泌量変化との関係や、血流動態に関与する様々な生体内分子の産生酵素やそれが作用する受容体の遺伝子やタンパク質の発現量を解析も必要となった。これらの解析には時間を要するため、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまだ未解析の40の候補遺伝子の発現量の定量RT-PCR解析を行い、新たなマーカーとなりうる遺伝子の同定を試みる。特に細胞増殖マーカーの変動は3日で起こるため、誘導3日までの初期段階で変動するものを中心に検討を進める。また血流動態の実験で得られた生体内活性物質(アンジオテンシンⅡなど)の産生酵素や、その受容体の発現量変動についても解析を行う。加えて、様々な阻害薬の投与によるこれまで発見した8つの初期(3日)と中期(7日)マーカー遺伝子をあるいは顎下腺重量変化を調べ、機能亢進腺誘導における様それらの影響を解析し、自律神経の伝達物質あるいは血液中のホルモンやオータコイドなどの関与について解析を行う。 さらに「、機能亢進腺における腺房細胞、導管細胞、筋上皮細胞におけるマーカー遺伝子の分布や唾液分泌に関わる様々な分子(受容体、水チャネル、イオンチャネルおよび共輸送体)発現変化、あるいは血管新生などを組織透明化技術による免疫組織科学的解析法により組織切片を作成すること無く臓器の形態を維持したまま三次元的な解析を試みる。機能亢進には、唾液腺細胞の受容体、イオンチャネルや共輸送体の発現上昇といった細胞の機能的な変化だけでなく、血管新生による唾液腺血流の亢進などが関与する可能性があることから、機能亢進腺における分泌刺激による血流動態をin vivo機能解析により検討する。(研究協力者:島谷真梨、金久保千晶)
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の研究により、代償性機能亢進のしくみの解明の新しい因子となる血流動態変動と唾液分泌との関係を明らかとなった。今後の検討課題として、片側障害による反対側顎下腺の安静時血流量や分泌刺激に対する機能亢進腺の血流動態の解析や、関連遺伝子(受容体や生体内物質の産生酵素)の遺伝子発現変化の解析を行っていく予定である。また網羅的遺伝子解析で変化が見られた候補遺伝子が現在40残っていることから、これら遺伝子発現量変動についてもさらに解析を続ける。これらの解析を行うには当該研究期間では十分な時間が無いことから研究期間を延長し、その予算と使用するため次年度使用額が生じた。
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