研究課題/領域番号 |
20K09888
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤 文彦 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (60632130)
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研究分担者 |
古田 貴寛 大阪大学, 歯学研究科, 講師 (60314184)
村上 旬平 大阪大学, 歯学部附属病院, 講師 (70362689)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 小脳 / 筋紡錘 / 三叉神経上核 / トゥレット症候群 / 脳深部刺激療法 |
研究実績の概要 |
令和2年度の研究では、閉口筋筋紡錘感覚が入力することから同定した三叉神経上核が反対側の視床後内側腹側核尾腹内側縁への強い投射に加え、反対側優位で両側性に視床の髄板内核群内のoval paracentral nucleus(OPC)に投射することが明らかになった。そこで、令和3年度は、この三叉神経上核-OPC路が閉口筋筋紡錘感覚を伝達することと、その投射様態の詳細の解明をめざした。ラットの脳アトラスを参考にして、OPCを狙って刺入したガラス管微小電極から、咬筋神経の電気刺激と受動的で持続的な開口に対する応答を記録できた部位にHRPを電気泳動にて注入して、記録部位をマーキングした。組織切片を作成したところ、記録部位はOPCであった。以上は、三叉神経上核-OPC路が閉口筋筋紡錘感覚を伝達することを示唆している。さらに、三叉神経上核-OPC路の起始細胞を調べるため、上記と同様に電気生理学的にOPCを同定し、その中に逆行性神経回路トレーサーであるCTbまたはFGを充填したガラス管微小電極を刺入し、CTbまたはFGを注入した。5日後に脳を摘出して連続冠状断切片を作成し、CTb抗体またはFG抗体を用いた免疫組織反応にて標識細胞体を可視化した。その結果、OPCに投射するニューロンが、反対側優位で両側性に三叉神経上核に少数認められた。以上によって、三叉神経上核-OPC路が確かに存在することが確認できた。令和3年度の研究によって、トゥレット症候群患者の症状を抑制することが報告された歯科スプリントの咬合で賦活される閉口筋筋紡錘感覚が、視床の髄板内核群で、ラットのOPCに相当する部位に伝達されている可能性が高いことがますます強く示唆できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は2つの実験を行った。まず行った、三叉神経上核-oval paracentral nucleus(OPC)投射が閉口筋筋紡錘感覚を伝達することの解明では、OPCから閉口筋筋紡錘感覚入力を記録する必要があったが、OPCが非常に小さな核であるため大変難しい実験であった。しかし、同様の入力が視床後内側腹側核尾腹内側縁(VPMcvm)からも記録できたので、先にVPMcvmの位置を同定した後、VPMcvmよりわずかに吻背側の部位を狙うことで、OPCに電極を刺入できる確率を格段に上げることができた。また、OPCの周囲の視床髄板内核群には閉口筋筋紡錘感覚は入力しなかったので、閉口筋筋紡錘感覚が入力する部位さえ見つけ出せれば、その部位がOPCである可能性は高かった。次に行ったOPCに投射するニューロンの分布の解明では、一つ目の実験でOPCに電極を刺入する方法が確立できていたので、電極の刺入とトレーサーの注入は、それほどの困難なしに何とか成功できた。しかし、OPCが小さな核であったために、OPC内に限局した注入を得るのが極めて困難であった。この問題は、実験数を増やすことで何とか克服できた。以上の実験では、共同研究者の古田貴寛講師と大学院生2名、技術補佐員2名の協力を得ることができたので、実験はおおむね順調に進展できた。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度までの研究によって、閉口筋筋紡錘感覚が三叉神経上核経由で、視床髄板内核群の中では、oval paracentral nucleus(OPC)のみに特異的に伝達されることが明らかになった。この結果が示した特異性は我々の当初の予想を超えて、筋紡錘感覚が、脳内の特異的な経路で伝達されて、特異的な機能を担っていることを強く示している。一方、これまでに我々は、閉口筋筋紡錘感覚が視床後内側腹側核尾腹内側縁(VPMcvm)経由で顆粒性島皮質に投射され、情動に関与する高い可能性を既に報告している。よって今後(令和4年度)は、三叉神経上核-OPC経路の機能の解明のため、OPC経由の閉口筋筋紡錘感覚が、大脳皮質のどこに投射するのか、顆粒性島皮質に投射されて情動に関与するかどうかを解明する必要が出てきた。この解明は、歯科スプリントの咬合で賦活される閉口筋筋紡錘感覚がトゥレット症候群患者の症状を抑制させるメカニズムの解明に繋がる可能性も出てきた。以上より、令和4年度は、OPC経由の閉口筋筋紡錘感覚が、大脳皮質のどこに投射されるのかの解明をめざす。また、本申請研究の最終年度なので、全ての結果を総括して、学会で発表し、論文として公表することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)研究助成金の申請書に記載したように、令和4年度も実験を遂行するので、それに必要な消耗品等の購入が必要である。また、実験の遂行と得られる研究結果の学術的評価を検討するために、学会に出席して情報交換が必要である。 (使用計画)令和4年度の経費の使途は研究助成金の申請当初と基本的に大きくは変わっていない。しかし、実験回数を当初の計画よりも増やす必要が出てきたので動物、器具、薬品などの購入量を増やす予定である。以上により計画当初よりもより多めの支出を行う予定である。
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