研究課題
線維性疾患は組織内にコラーゲンが過剰に沈着し、正常な組織機能が損なわれる慢性疾患である。近年、筋線維芽細胞が線維化のキープレイヤーとして注目されているが、その分化機構は未だ不明である。本研究課題の目的は線維化の進行に重要な役割を担うと考えられているCellular communication network factor 2 (CCN2)が筋線維芽細胞の分化にどのように関わっているのかをイントラクリン作用の観点から解明することである。当該年度では、未分化間葉系細胞株C3H10T1/2細胞を用いてCCN2にイントラクリン様の作用を誘導し、筋線維芽細胞への分化に対する影響を解析した。以下にその結果を示す。1.シグナルペプチドを欠失したCCN2の発現プラスミド(SP-Ccn2)を構築し、C3H10T1/2細胞に遺伝子導入した。対照群としてシグナルペプチドを付加したCCN2の発現プラスミド(SP+Ccn2)を用いた。CCN2が核内に移行するかを蛍光免疫染色で調べた結果、SP+Ccn2を遺伝子導入した細胞ではCCN2が細胞質に局在したのに対し、SP-Ccn2を遺伝子導入した細胞ではCCN2は一部核内に見られた。2.1.で作製した発現プラスミドをC3H10T1/2細胞に遺伝子導入し、筋線維芽細胞分化に重要な転写因子であるPU.1の遺伝子発現レベルを定量RT-PCR法で解析した。結果、SP+Ccn2を遺伝子導入した群ではempty vectorを導入した群と変わらなかったが、SP-Ccn2を遺伝子導入した群はPU.1の遺伝子発現レベルが有意に上昇した。3.PU.1の標的分子であるテネイシンC及びPDGFの産生量をWestern blot解析で調べた結果、SP-Ccn2を導入した群で両分子の産生量の増加が見られた。
2: おおむね順調に進展している
令和2年度の研究実施計画はSP-Ccn2プラスミド及びSP+Ccn2プラスミドを構築し、CCN2が核内に移行するのか、そして筋線維芽細胞分化のキーとなる転写因子PU.1に対してイントラクリン作用を有しているのかを明らかにすることに主眼を置いた。そのため、SP-Ccn2プラスミドの遺伝子導入によって、PU.1の遺伝子発現レベルが有意に上昇したこと、及びその標的分子であるテネイシンCやPDGFの発現上昇をタンパク質レベルで確認したことから、本研究課題は計画通りに進展していると考える。しかし、一部、PU.1のプロモーターの単離が進展していない点とC3H10T1/2細胞を用いたCcn2ノックアウト細胞の構築準備に着手できなかった点を考慮すると、計画以上に進展しているとは言い難いため、令和2年度は概ね順調に進展していると判断した。
令和3年度は、核内に移行したCCN2がPU.1のプロモーターに対してどのような作用を有しているのかを明らかにする。そのためには、昨年度、着手できなかったPU.1のプロモーターを単離する。そのプロモーターを用いてreporter プラスミドを構築し、reporter gene assayを行う。また、PU.1発現プラスミドも同時に構築する。Ccn2をゲノム編集技術でノックアウトしたC3H10T1/2細胞にPU.1発現プラスミドを遺伝子導入し、筋線維芽細胞への分化に対する影響を解析する。
令和2年度はSP-Ccn2プラスミド及びSP+Ccn2プラスミドの構築とこれらプラスミドを用いた解析に主眼を置いたため、PU.1発現プラスミドの構築まで着手できなかった。また、C3H10T1/2細胞のCCN2をゲノム編集技術でノックアウトする実験も着手することができなかった。そのため、次年度使用額が生じた。令和3年度はPU.1発現プラスミドの構築を行うと共にC3H10T1/2細胞を用いたCCN2ノックアウト細胞の構築を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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