研究課題/領域番号 |
20K09893
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研究機関 | 九州歯科大学 |
研究代表者 |
小野 堅太郎 九州歯科大学, 歯学部, 教授 (40316154)
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研究分担者 |
人見 涼露 日本大学, 歯学部, 助教 (70548924)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 口内炎疼痛 / 神経ペプチド / 神経軸索 |
研究実績の概要 |
本研究では、神経系から免疫系への逆の経路の解明を目指し、口内炎モデルの三叉神経節に対するマイクロアレイ解析にて著明な発現増加を示したHamp、Reg3bおよびSerpina3nの3遺伝子(抗菌・免疫関連ペプチドをコード)に注目する。この3遺伝子が感染や傷害によりどのような分子機構を介して発現増加に至るのか、また、産生されたペプチドが末梢で放出された際に、免疫機能および疼痛発生にどのような影響をもたらすのかを明らかにすることが本研究の目的である。 実験系は大きくin vivoとin vitro実験に分かれる。in vivo実験ではラットを用いて、口内炎モデル、歯牙移動モデル、下歯槽神経切断による神経障害性疼痛モデルを使用する。各モデルにおける3遺伝子の三叉神経節での発現変化を追い、蛍光免疫染色法にてペプチドの輸送について検討する。さらには、3ペプチドをラット口腔粘膜に投与し、免疫組織化学法による免疫応答、および電気生理学的手法による侵害受容神経での応答を確認する。一方、in vitro実験では、軸索ガイダンス標本における遺伝子転写およびペプチド放出について検討する。AXISシステムを用いて、通法により単離したラット三叉神経節ニューロンを神経栄養因子とグリア由来神経栄養因子を用いて軸索ガイダンスを行う。この標本では軸索終末側のみを刺激することができ、in vitroでありながら神経構造上、in vivoと相似性の高い実験系を提供する。この実験系により、in vivoでは不可能な解析が可能になると考えている。 両実験系からの結果を組み合わせることで、末梢神経からの抗菌・免疫関連ペプチド分泌による免疫系調節および疼痛発現機序が明らかになると思われる。本研究から得られる結果は、将来、新規の治療法や新薬の開発に繋がることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、今後の研究の礎となる基礎的予備実験から行った。モデル動物からの検討や電気生理学的実験については予定通りに進行したが、AXISシステムを使用したin vitro実験系が予定より遅れている。 新規に歯牙移動モデルと下歯槽神経切断による神経障害性疼痛モデルを手技的に確立することができた。これらのモデルより摘出した三叉神経節をサンプルとして定量性RT-PCRを行い、Hamp、Reg3bおよびSerpina3nの3遺伝子が共通して発現増加していることを確認した。さらに、Hampにコードされるヘプシジンの蛍光免疫染色を行った。複数の抗体を用いた中で、三叉神経節切片をリン酸オートクレーブ処理した場合に免疫陽性を示す抗体を特定することができた。同様に、ウエスタンブロッティングでの検討を進めている。 予備実験として、侵害受容2次ニューロンからの細胞外活動電位記録のため、口腔前庭粘膜からの侵害受容を延髄のどこの部位が最も応答するのかを調べた。口腔前庭粘膜にカプサイシン刺激を行い、2時間後に延髄を摘出して連続切片を作製した。神経興奮マーカーであるc-Fosタンパクを指標として検討したところ、神経活動が最も豊富な部位を特定することができた。その部位からの細胞外電気記録によって、ヘプシジンはWDRニューロンにおける侵害機械刺激応答を増強する作用を示した。 In vitro実験では、ラット三叉神経節ニューロンを単離し、神経軸索ガイダンスに必要な神経栄養因子とグリア由来神経栄養因子の濃度設定を検討した。十分な神経軸索伸張を示す濃度において、神経障害マーカーとなるATF3の核移行が十分に抑制されていることを確認した。実際にAXISシリコンチャンバーを使用して培養を行っているが、単離ニューロンが指定の位置から流れ出したりして、まだ効率的な培養実験手順を見出していない。
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今後の研究の推進方策 |
野生型ラットでのモデル作製を確立できたので、既に飼育しているTRPA1ノックアウトラットでモデル作製を行い、疼痛関連行動が抑制されていることを確かめる。疼痛がないということは、侵害受容神経での活動電位発生がないことを意味するため、標的ペプチドの末梢放出がない状態となる。ヘプチジン免疫染色により三叉神経節ニューロンでの発現変化について野生型モデルとの比較を行う。さらに、口内炎粘膜部と歯根膜部のHE組織標本を作製し、免疫細胞の浸潤程度について評価する。口内炎粘膜部では、超音波処理して組織から細菌を漏出させ、BHI寒天培地でのコロニー数を測定することで生菌数を評価する。これにより逆行性ペプチド輸送の免疫応答性への影響について明らかにすることができる。 AXISシリコンチャンバーのガイダンス部分により多くの単離ニューロンを定着させるために細胞ローディング法に変更を加える。ローディングスペースにあらかじめ培養液を満たさず、ガイダンス入口に細胞が集積するように斜めにチャンバーを設置し、細胞定着後に水平に戻す。この方法にて、より効率的な培養手順を探索する。既に設定している神経栄養因子とグリア由来神経栄養因子による神経軸索の伸張後、軸索末端のみにInterleukin-6や高濃度KCl(脱分極)およびリポポリサッカライド刺激などを行い、細胞体領域からの定量性RT-PCRを行い、Hamp、Reg3bおよびSerpina3nの3遺伝子が共通して発現増加する刺激を特定する。転写経路にCREBなどが示唆された場合は、刺激後1時間単位でニューロンを固定し、免疫染色にてこれらの因子が細胞体へ移動する像を捉える。同じく、各遺伝子がコードするペプチドが軸索終末側に移動しているかどうかを免疫染色にて確かめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年4月より分担者である人見涼露博士が九州歯科大学から日本大学歯学部に転出した。九州歯科大学では予算を2月末まで使用できたが、日本大学歯学部では1月から一切の物品購入ができないことを承知していなかったため、ラット購入代として予定していた10,900円が使用できなくなり、残金となってしまった。 翌年度にラット購入代として追加仕様の予定である。
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