口内炎は潰瘍形成による粘膜への細菌感染に起因する感染性炎症であり、疼痛関連TRPチャネルの活性化が関与している。ラット口内炎モデルの三叉神経節を対象としてマイクロアレイ解析を行ったところ、抗菌ペプチドをコードする3遺伝子(Hamp、Reg3bおよびSerpina3n)が著明に発現増加していたことから、抗菌ペプチドが疼痛発生に寄与してるのではないかという仮説を立てた。 ラット口内炎モデルは下顎口腔前庭粘膜を50%酢酸で30秒処理すると、2日後に潰瘍が形成される。この潰瘍形成に一致して口内炎部の細菌数は増加しており、行動学的解析から自発痛と接触痛が一致して発生する。この疼痛は、ステロイド軟膏の貼薬によって細菌数を抑制することなく、抗炎症性に自発痛を抑制し、TRPA1チャネルの抑制により接触痛を抑制した。一方、抗菌薬の投与は一律に自発痛と接触痛を抑制する。マイクロアレイ解析より明らかとなった抗菌ペプチド3種の遺伝子の三叉神経節での増加は定量性RT-PCR解析でも同じ結果を示し、抗菌薬投与にて有意に発現が抑制された。さらに、口内炎モデルだけでなく、矯正歯移動モデル、下歯槽神経切断疼痛モデルでも共通して、Hampおよびコードされるヘプシジンの増加は三叉神経節の支配領域および疾患部特異的であった。 必ずしも細菌感染に依存せず、疼痛に関与して発現増加していることから、ヘプシジンが疼痛発症に関与するのではないかと考えた。そこで口腔顔面領域の痛覚中継核とされる三叉神経脊髄路核尾側亜核からのin vivo神経活動記録を行った。ヘプシジンの口腔粘膜投与により侵害機械刺激に対する神経活動が有意に増強された。 これらの結果より、ヘプシジンが抗菌ペプチドとして機能するだけでなく、疼痛を誘発する作用も有していることを示唆している。本研究から得られた結果は、新規の治療法や新薬の開発に繋がることが期待される。
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