研究課題
抜歯やインプラント埋入等の口腔領域外科処置によって生じる偶発症として神経障害性疼痛が挙げられる。患者のQOLを著しく低下させるため、適切な治療が必要であるが、神経障害性疼痛のメカニズムは十分に解明されていない。C57BL/6Jマウスの眼窩下神経の損傷により、口腔領域の神経障害性疼痛モデル (IONI) を作製した。IONI後、口髭部皮膚に対するvon Freyフィラメント刺激により頭部引っ込め反射閾値 (HWT) の顕著な低下を認めた。また、これと相関して三叉神経脊髄路核尾側亜核 (Vc) におけるIL-33陽性細胞数の増加を認めた。IL-33はVcのオリゴデンドロサイトに局在しており、IL-33受容体はニューロンに局在していた。IONI後に生じるHWTの低下はIL-33中和抗体の大槽内投与により改善した。一方で、正常マウスに対するIL-33大槽内投与により、顕著なHWTの低下が認められた。IL-33誘発性のHWT低下はNMDA受容体GluN2Bサブユニット阻害薬であるRo25-6981の大槽内投与によって緩和された。また、IL-33の大槽内投与により、Vc領域におけるsynaptosomal分画のGluN2Bのリン酸化およびGluN2B電流の増強を引き起こした。これらの変化にアストロサイトやミクログリアなどの関与は認められなかった。IL-33の大槽内投与により、FynキナーゼのTyr416のリン酸化が認められ、このリン酸化の阻害によりGluN2Bのリン酸化の抑制が認められた。また、Fynキナーゼ阻害薬によりIL-33誘発性のMWT低下が抑制された。以上の結果より、IL-33はNMDA受容体を介したシナプス伝達の増強により神経障害性疼痛に寄与する可能性が示唆された。IL-33シグナル伝達を標的とした口腔顔面領域の神経障害性疼痛に対する治療的介入の可能性が期待される。
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