研究課題
エナメル上皮腫は歯原性腫瘍の中で最も発生頻度が高く、100万人あたり約0.5人が新たに診断されている。エナメル上皮腫は歯原性上皮由来の良性腫瘍であるが、再発したり、しばしば広範に顎骨吸収を呈するため、臨床的にも重要な腫瘍として考えられている。しかし、その病因は不明であった。最近、エナメル上皮腫においてBRAF V600E変異に依存したMAPKシグナルが異常に活性化していることが報告されたが、細胞増殖や顎骨吸収における機能は不明であった。 本研究では、ヒトエナメル上皮腫の病理組織標本において免疫染色を行ったところ、73%の症例においてARL4Cがエナメル上皮腫細胞特異的に染色された。これまで、ARL4CはMAPKシグナルにより発現制御され、各種の癌において腫瘍形成を促進することが報告されている。そこで、BRAF V600E変異を有するエナメル上皮腫細胞株を用いた検討したところ、ARL4Cの発現は、BRAF V600E変異単独のシグナル伝達活性化には依存せず、主にRAF1-MAPKに依存していることを見出した。この結果から、エナメル上皮腫において、BRAF V600E-MAPKシグナルだけでなく、RAF1-MAPK-ARL4Cシグナルが活性化していると考えられた。また、ARL4Cの発現はエナメル上皮腫の腫瘍細胞増殖に必要であった。次に、エナメル上皮腫細胞がARL4Cを発現している病理組織標本において、多数の破骨細胞が認められた。そこで、マウス骨芽細胞と骨髄細胞の初代培養にエナメル上皮腫細胞を共存培養したところ、エナメル上皮腫細胞におけるARL4Cの発現量に依存してTRAP染色陽性 の破骨細胞様細胞が形成された。加えて、この実験系において、マウス細胞由来のRANKLを介してTRAP陽性細胞が誘導されていた。以上の結果より、エナメル上皮腫における RAF1-MAPKシグナル依存性のARL4C発現はエナメル上皮腫の腫瘍細胞増殖と破骨細胞形成に必要であることが示唆された。
Jeremy Jass Prize for Research Excellence in Pathology 2021 https://pathsocjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/path.6051http://www.jsbmr.jp/1st_author/466_sfujii.html 日本骨代謝学会の1st author
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