研究課題
歯周病菌P.gingivalisが免疫抑制型受容体のSiglecを介してマクロファージや樹状細胞による宿主免疫応答を回避していることを見出している。この免疫回避機構には、歯周病菌が産生するタンパク質分解酵素ジンジパインによるSiglecの切断が必須である。そこで、ジンジパイン阻害剤によりこの免疫回避機構を打ち消すことで、歯周病菌に対する宿主免疫応答を強化することを目指している。ジンジパインにはKgpとRgpの2種類があるが、昨年のin vitroの研究により、両方を阻害することで効率良く免疫回避機構を打ち消すことができることが判明している。そこで、両方に阻害活性を有するPPACKを用いて、in vivoにおける歯周病菌に対する宿主免疫応答を検討した。歯周病菌は口腔内の傷口から血流に侵入して全身に拡散して様々な組織で炎症を引き起こす。これを模倣するため、歯周病菌をマウスの尾静脈より投与し、各組織における炎症生サイトカイン産生および菌数を測定した。ジンジパイン阻害剤の投与により、末梢血、脾臓、肺において、TNF、IL-1b、IL-6などの炎症生サイトカインの産生が亢進し、それに伴い各組織における菌数が減少することが明らかとなった。この結果から、ジンジパイン阻害剤が歯周病菌による免疫回避機構に対抗する治療薬となりうる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
歯周病菌の免疫回避機構に対する、ジンジパイン阻害剤の効果をin vivoで確認することができたことで、本研究における「歯周病菌に対する新規治療法を確立する」という目的を達成することができた。
PPACKという既存の阻害剤により、マウス固体レベルで治療効果が認められたが、実際に臨床応用を考えると、使用濃度や細胞毒性を改善する必要がある。そこで、より低濃度でKgpとRgpを阻害し、かつ細胞および固体での毒性の少ない低分子化合物の探索を行う。既存の化合物ライブラリーからin vitroのスクリーニングにより候補分子を選定し、それらの化合物に対してin vivoでの治療効果および毒性試験を行う。
新型コロナ感染防止対策などにより、予定していた実験の一部を次年度に繰り越したため。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
International Journal of Molecular Sciences
巻: 22 ページ: 13098~13098
10.3390/ijms222313098
European Journal of Pharmacology
巻: 890 ページ: 173651~173651
10.1016/j.ejphar.2020.173651