研究課題
自然免疫を担う補体タンパク質であるC3aおよびC5aは補体活性化によって産生され、それぞれのレセプター(C3aR、C5aR)を発現する免疫細胞を遊走または活性化することで、病原微生物の侵入を防いでいる。一方、腫瘍に対しては負の働きが多く、がん細胞の産生したC3およびC5が癌組織局所でC3aおよびC5aに分解され、がん細胞の増殖・転移を促進することが報告されている。また、C3aRやC5aRの阻害剤を用いたマウス腫瘍モデルの研究では、C3aRやC5aR阻害剤投与により、細胞障害性T細胞(CTL)の活性化をはじめとする抗腫瘍免疫を高めるとともに、癌組織中の制御性T細胞(Treg)や骨髄由来抑制細胞(MDSC)の比率および抑制性サイトカインやCTLA-4の発現が減少する報告が多数ある。すなわち、癌微小環境で生じたC3aやC5aが、C3aRおよびC5aRを介してTregを誘導し、抗腫瘍免疫を抑制する。しかしながら、抗腫瘍免疫応答の抑制に中心的な働きを担うTregに対してC3aRおよびC5aRがどのように作用するかは未だに明らかでない。これらの報告はマウスモデルのみでヒトの腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を用いたC3aRおよびC5aRの検討は皆無である。そこで本研究でヒト口腔癌においてC3aRおよびC5aRがどのようにTregを活性化し、抗腫瘍免疫を制御しているのかの解明を試みた。今年度は、公開されている頭頸部癌のデータベースを用い、Tregのマスター転写Foxp3とC3aRおよびC5aRの発現レベル解析したところ、C3aRとC5aRのmRNA発現はともにFoxp3と強い相関があり、Tregに対してC3aRおよびC5aRのシグナルの関与が強く示唆された。
2: おおむね順調に進展している
コロナ禍で、臨床サンプルを得ることが難しい状況下であったため、それらを用いた解析は思うように進められなかった。しかしながら、近年めざましい発展を遂げているデータベースなどを活用した新たな解析方法により、C5a等の補体系タンパクのTreg誘導を明らかにすることができた。
コロナ禍で、臨床サンプルを得ることが難しい状況下が続く可能性が高いので、データベース解析を用いて、C3aやC5aによる抗腫瘍免疫応答の制御の解析を進める。臨床サンプルが得られれば、それらを用いてヒト口腔癌浸潤TregのC3aRおよびC5aR発現と癌組織浸潤CTLとの関連性をフローサイトメーターで解析する。
コロナ禍で臨床サンプルを用いた研究が凍結されたため、それらを用いた試薬の購入しなかった。また、一部実験消耗品は物品の納入が未定や延期のものが多く、購入できなかった。
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Proc Natl Acad Sci USA
巻: 118 ページ: e2021919118
10.1073/pnas.2021919118.
巻: 117 ページ: 20696-20705.
10.1073/pnas.2000372117.