研究課題/領域番号 |
20K09917
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長谷部 晃 北海道大学, 歯学研究院, 教授 (90281815)
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研究分担者 |
佐伯 歩 北海道大学, 歯学研究院, 助教 (70638345) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Candida albicans / DSS誘導腸炎 / メタゲノム解析 |
研究実績の概要 |
腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)により、全身の健康状態の悪化を招くことがあるなど、常在菌が全身の状態に影響を及ぼしていることがわかってきている。我々は、嚥下により常時口腔細菌を摂取することで口腔細菌叢が腸内細菌叢におけるdysbiosisにつながり、口腔細菌叢のdysbiosisが全身の健康状態に影響を与えるのではないかと考えている。そこで、口腔にCandida albicansを定着させてC. albicansを常時嚥下するモデルマウスで研究をしている。C. albicanはマウスの消化管には存在せず、ヒト口腔など消化管に常在する日和見病原体である。これまで我々は、マウスがC. albicansを常時嚥下すると腸内細菌叢が大きく変動すること、またその腸内細菌叢の変動により、腸炎の増悪を誘導することも明らかにした。さらにC. albicanを常時嚥下しているマウスにおいては、腸炎を誘導するとoccludinとZO-1などの上皮間接着分子の発現レベルが低下することがわかった。これらのことに基づき、Toll様受容体2(TLR2)欠損(TLR2KO)マウスと野生型のマウスとの間で腸内細菌叢に違いがあるかを調べた。TLR2はC. albicansの宿主による認識において非常に重要な役割を果たす受容体のひとつである。同一ケージで2週間飼育した野生型マウスとTLR2KOマウスの糞便中の細菌についてメタゲノム解析により調べた。その結果、TLR2KOマウス糞便には野生型マウスの場合と比べてグラム陽性菌が多かった。また、グラム陰性桿菌のAkkermansia muciniphilaの割合がTLR2KOマウスにおいて野生型マウスより有意に少ないことがわかった。A. muciniphilaは現在糖尿病や肥満の抑制など多くの点でいわゆる善玉菌として注目されているものであり興味深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
残念ながら今年度も本研究課題の進捗状況としては、やや遅れていると言わざるを得ない。今年度も新型コロナウイルス感染拡大の影響があったとはいえ、昨年までと異なり、北海道大学の行動指針レベルが3になることはなかった。したがって、直接的に実験の開始を禁止されるなどのことはなかった。しかしながらレベル2の期間もあり、研究活動が制限されていた面がある。また、実際に研究活動の制限というよりも、研究の遂行に必要な多くの消耗品について、納品が遅れがちであったり欠品になったりすることが多かった。これらはコロナ禍の影響だけではないのかもしれないが、これまで容易に入手出来ていた消耗品がなかなか入手できないことが多々あった。ただその中にあって、予定していたウェスタンブロッティング等を行い、C. albicansなど真菌の認識に重要なTLR2の欠損マウスを用いて野生型マウスとの腸内細菌叢の比較もできたため、今後の本研究遂行にあたり基本的なデータを得ることができた。これらの結果をもとにこれからの研究が進められることを考えると、最終年度もやや遅れている状況ではあるが最終的には概ね順調に進められるものと想定している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策についても、新型コロナウイルス感染状況を注視し、国の基本的対処方針および北海道の方針、それを受けた本学の行動指針に則り、研究活動を実施する必要があるが、基本的には以下のように推進することを予定している。まず、これまで得られた結果から、デキストラン硫酸ナトリウムで腸炎を起こしたマウスにおいてC .albicansの接種の有無が腸管における上皮細胞間接着分子の発現に及ぼす影響を調べる。また、腸管上皮の細胞間接着因子の発現の減少だけでなく、腸炎を起こしていると腸管上皮の透過性の亢進が起こると報告されていることから、C .albicansなどの口腔由来微生物が口腔から透過性の亢進した腸管を経てマウスの体内に侵入することが可能であるか調べる。これにより、口腔におけるdysbiosisは腸内細菌叢に影響を及ぼすだけでなく、口腔微生物が直接全身に影響を及ぼす可能性について知ることが可能となると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染の拡大に伴い、研究の遂行の障害が来した。今年度も在宅勤務の奨励、各種測定キットの納品の遅れなどに加え、通常のプラスチック消耗品などについても納品の遅延が多かったため、実験を予定通りに行うことが難しい状況にあった。そのため今年度は研究がやや遅れ実験の予定がずれこんだため、次年度使用額が生じた。
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