研究課題
本研究費では動物由来歯周病菌Porphyromonas gulae のヒト歯肉上皮細胞への病原因子の影響を解析し、本菌による歯周病発症を詳細に理解することと、その制御法の開拓につながる知見を得ることを目的としている。P. gulae の病原因子は、現在、線毛、タンパク分解酵素(プロテアーゼ)、LPSの存在が明らかにされている。その中でも、線毛はP. gulae が歯肉上皮細胞への付着侵入に役割を果たすことが報告されている。しかしながら、プロテアーゼやLPSが本菌の病原性に及ぼす影響については不明である。本年度研究は、P. gulaeが保有するプロテアーゼやLPSが宿主細胞にどのような影響を及ぼすかを検討すると共に、線毛の役割の詳細を検討するため、線毛ノックアウト株の作製を行った。ヒト歯肉上皮細胞株Ca9-22株(ヒト歯肉癌由来)や宿主タンパク質をプロテアーゼで刺激し、細胞接着、接着斑、フィブリノーゲン、フィブロネクチンあるいはグロブリンを分解することを明らかにした。さらにはLPSが歯肉上皮細胞の炎症反応を惹起することを明らかにした。線毛ノックアウト株の作製をするため、線毛遺伝子(fimA;既知領域)のプロモーター領域を含む上流約1000bpと下流約500bpの塩基配列を決定した。さらにノックアウト株の選択を行うため、エリスロマイシンカセットのプラスミドを作製し、電気穿孔法により線毛ノックアウト株の作製を完成させて。現在は、相補株を作成するため、テトラサイクリンカセットのプラスミドを作製している。またプロテアーゼに関連する遺伝子部位を特定し、塩基配列の決定を進めているところである。
2: おおむね順調に進展している
ヒト歯肉上皮細胞を用いたP. gulae 病原因子の解析は、おおむね順調に進展している。本年度研究では、P. gulae プロテアーゼやLPSの宿主細胞への影響に関する基礎データを収集し、線毛ノックアウト株を作製することができた。プロテアーゼ関連遺伝子の場所を特定するのに時間を要し、ようやく塩基配列の決定する作業に進むことができると思われる。そのため、プロテアーゼックアウト株の作製はやや遅れ気味かと思われる。
線毛ノックアウト株の相補株を完成させ、歯肉上皮細胞への付着侵入能やカイコを用いた細胞傷害能の解析を進める。LPS刺激による炎症反応に関連する受容体ならびにシグナル伝達経路を同定する予定にしている。プロテアーゼについては、ノックアウト株の作製を進めながら、先に阻害剤を使用して、その特徴を明らかにすると共に、菌の生態への影響を解析する予定である。
新型コロナウイルス感染症の影響により、学会参加や打ち合わせのための旅費を使用することができなかった。また、研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はない。次年度は、遺伝子組み換え株や相補株の作製を継続するが、使用計画として、線毛やLPSの宿主細胞への影響を解析するための費用、プロテアーゼについては、進められる箇所を先に解析するための費用、また、学会参加費ならびに論文投稿(英文添削含む)に必要な費用に充当する予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件)
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