研究課題/領域番号 |
20K09918
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
稲葉 裕明 岡山大学, 医歯薬学域, 准教授 (70359850)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | P. gulae / 線毛 / プロテアーゼ / LPS / 病原因子 |
研究実績の概要 |
本研究費では動物由来歯周病菌Porphyromonas gulae のヒト歯肉上皮細胞への病原因子の影響を解析し、本菌による歯周病発症を詳細に理解することと、その制御法の開拓につながる知見を得ることを目的としている。
P. gulae の病原因子は、現在、線毛、タンパク分解酵素(プロテアーゼ)、LPSの存在が明らかにされているが、本研究課題でそれら病原因子の役割を解明する。昨年度研究までに、プロテアーゼは歯肉上皮細胞に存在する細胞接着、接着斑、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、さらにはグロブリンを分解することを解明した。LPS解析では、LPSが歯肉上皮細胞の炎症反応を惹起することを明らかにした。線毛研究では、線毛欠損変異株の作製を進めた。
本年度研究内容を以下に示す。線毛解析:線毛欠損株ならびに同欠損株の相補株を完成させると共に、線毛欠損株と相補株の菌性状を確認した。線毛の有無以外、P. gulae 増殖能、黒色色素産生能に影響をおよぼさなかった。LPS解析:LPSに刺激された歯肉上皮細胞のToll様受容体2と4の活性を始めとする炎症反応までに至るシグナル伝達経路を、Toll様受容体ノックダウン細胞を用いて明らかにした。プロテアーゼ解析:プロテアーゼはP. gulaeが保有する血色素凝集能、菌増殖能ならびに口腔細菌 A. viscosusとの共凝集に影響をおよぼすことを明らかにした。また、歯肉上皮細胞の増殖能や細胞形態への変化に関与することも明らかにした。プロテアーゼに関連する遺伝子部位の塩基配列の決定が遅れているため、各種阻害剤を用い、触媒残基に基づく分類を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト歯肉上皮細胞を用いたP. gulae病原因子の解析は、おおむね順調に進展している。本年度研究では、P. gulae プロテアーゼやLPSの宿主細胞への影響に関する基礎データを収集し、線毛欠損株と同相補株を完成させ、その性状を明らかにした。プロテアーゼはP. gulae が保有する能力(血色素凝集能、菌増殖能)への関与、ならびに口腔細菌との共凝集に影響をおよぼすことを明らかにした。さらには、歯肉上皮細胞の増殖能や細胞形態への変化に関与することも明らかにした。プロテアーゼに関連する遺伝子部位の塩基配列の決定が遅れているため、解析の代替方法として、各プロテアーゼ阻害剤を用いた解析を準備している。
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今後の研究の推進方策 |
線毛解析:線毛変異株、同相補株、野生株を用いて、歯肉上皮細胞への付着侵入能、カイコを用いた細胞傷害能ならびにバイオフィルム形成への関与について解析を行う。LPS解析:LPS刺激による炎症を抑制する化合物の候補を選ぶ。各化合物の歯肉上皮細胞に惹起された炎症の抑制機能を解明し、歯周炎に効果的である化合物の選定を行う。プロテアーゼ解析:プロテアーゼ阻害剤を用い、歯肉上皮細胞に存在するタンパク群やグロブリンの分解阻害反応と共に、プロテアーゼ活性阻害を確認することで、P. gulaeプロテアーゼの触媒残基に基づく分類を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症のため、学会参加や打ち合わせのための旅費を使用することができなかった。また、研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。
次年度は、化合物の候補の選定とスクリーニング、さらにはプロテアーゼ阻害剤を使用した研究に、昨年度からの継続分および次年度の研究費を使用する予定である。また、学会参加費ならびに論文投稿(英文添削含む)に使用する予定である。
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