研究課題/領域番号 |
20K09919
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
田端 厚之 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 講師 (10432767)
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研究分担者 |
友安 俊文 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 准教授 (20323404)
長宗 秀明 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 教授 (40189163)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Streptococcus anginosus / アンギノーサス群レンサ球菌 / 病原性 / 分子進化 / 異所性環境 |
研究実績の概要 |
本研究は、ヒト口腔内に常在する日和見病原性のレンサ球菌であるStreptococcus anginosusを対象とし、本菌の異所性の棲息環境における病原性の発揮や分子進化の可能性を検討すると共に、そのメカニズムをin vitro レベルで明らかにすることを目的として実施している。研究計画の初年度である令和2年度は、「異所性の棲息環境下でのS. anginosus の増殖性や表現型の変化を明らかにする」ことを目的として検討を行った。具体的には、血液由来成分の存在環境における被検菌の増殖性や表現型(溶血因子の産生など)の変化について検討を行った。また、ヒト由来株化培養細胞との共培養環境における被検菌の増殖特性について検討を行った。さらに、低酸素環境下における被検菌の増殖についても検討を行った。 その結果、ヒト由来株化培養細胞(令和2年度は、口腔扁平上皮癌由来細胞株、肺癌由来細胞株、子宮頸癌由来株について検討を実施)との共培養環境における被検菌の増殖特性、および低酸素環境下における被検菌の増殖については、これまでの検討では特筆すべき影響や変化は確認されなかった。一方、血液由来成分の存在環境における被検菌の増殖特性や表現型(溶血因子の産生)の変化に関しては、被検菌の増殖特性に顕著な変化は確認されなかったものの、被検菌の培養上清の溶血活性が顕著に上昇することを確認した。 以上より、本年度の研究では、S. anginosusの培養条件に関して、血液成分存在下での溶血因子の産生向上が確認できた。S. anginosusの溶血因子はペプチド性溶血毒素であるストレプトリジンSであることから、今後は血液成分存在条件におけるストレプトリジンSをコードする遺伝子群の発現やその転写翻訳産物であるストレプトリジンSの産生、および産生されたストレプトリジンSの安定性に注目し、引き続き研究を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は、新型コロナウイルスのパンデミックという想定外の状況に直面し、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のためにとられた所属機関の事業継続計画により、研究活動が少なからず制約を受けることになった。しかしながら、そのような状況の中でも、本研究は当初計画を変更すること無く進めることができ、さらに「研究実績の概要」にも記載したように、本年度の検討において、S. anginosusにおける血液成分存在下での溶血因子の産生向上を確認することができた。この結果は、日和見病原菌であるS. anginosusが血液内において細胞障害性を増強させる可能性を示唆する結果であり、本研究において重要な知見であると考えている。そして、この結果が得られたことによって、当初計画通りに令和3年度以降の研究も遂行することができる。よって、本研究の現在までの進捗状況について、「おおむね順調に進展している」との評価を付した。 なお、令和2年度の研究においては、ヒト由来株化培養細胞との共培養環境や低酸素環境下における検討に関して、残念ながら特筆すべき変化や効果は確認されなかった。これらについては、より詳細な条件検討を含め、令和3年度も引き続き検討を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画の2年目である令和3年度は、当初計画に従って実施する予定である。具体的には、「異所性の棲息環境下でのS. anginosusの応答反応を網羅的に検討する」ことを目的として研究を進めるために、令和2年度の研究において見出したS. anginosusにおける血液成分存在環境における溶血因子の産生向上効果に注目し、血液成分存在下でのストレプトリジンSのコード遺伝子群の発現変動解析を行うと共に、血液成分中で本効果の発揮に寄与している具体的な成分の特定を目指した検討も当初計画に加えて実施する。また、令和2年度に引き続き、S. anginosusの増殖特性や表現型の変化を誘導する異所性環境における諸条件の検討を進めると共に、その環境下におけるS. anginosusの応答反応についてRNA-Seq解析を行うことにより、菌体の応答反応を遺伝子発現レベルで網羅的に検討する。 なお、令和2年度の研究においては、ヒト由来株化培養細胞との共培養環境や低酸素環境下における検討において、残念ながら特筆すべき結果や効果は確認されなかった。これらについては、より詳細な条件検討を含め、令和3年度も引き続き検討を進めていく。なお、令和2年度の研究においては、S. anginosusの基準株でありβ溶血性を示すNCTC10713T株を用いて検討を行ってきた。令和3年度以降の検討においてもNCTC10713T株を用いる予定であるが、その検討において具体的な結果が得られない場合は、当研究室において保存している他の臨床株を用いて同様に検討を行うことも想定しながら研究を進めていく。
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