研究課題/領域番号 |
20K09921
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
中山 浩次 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 客員研究員 (80150473)
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研究分担者 |
雪竹 英治 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 技術職員 (30380984)
庄子 幹郎 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 准教授 (10336175)
内藤 真理子 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 教授 (20244072)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細菌 / 歯学 / 生体分子 / 感染症 |
研究実績の概要 |
病原細菌の多くは毒素、プロテアーゼなどの酵素、凝集素などを菌体表面および菌体外に分泌する。グラム陰性菌の場合、現在、9種類(1型~9型)の分泌機構が報告されている。私たちは9型分泌機構(T9SS)を世界にさきがけて口腔嫌気性細菌ポルフィロモナス・ジンジバリスで発見した。この分泌機構はバクテロイデーテス門に含まれる多くの細菌が有していることがその後の研究でわかってきた。ポルフィロモナス・ジンジバリスは慢性歯周炎の最重要病原細菌であり、本菌の重要な病原因子である強力なプロテアーゼ、ジンジパインはT9SSで分泌される。T9SSは二成分制御系PorXYとECFシグマ因子SigPのシグナル経路により発現調節されるが、調節系の全体像は不明であった。本研究は、PorXY-SigPシグナル経路の上流に位置する新規の外膜タンパク質PorAによるフィードバック制御を解明することにあり、その成果は歯周病細菌を始めとするバクテロイデーテス門細菌のT9SSをコントロールする方法の開発という応用研究に発展する可能性がある。 T9SSで分泌されるタンパク質にはC末端側にコンセンサスモチーフがあり、T9SS CTDという。PorAはT9SS CTDをもつタンパク質のなかで2番目に分子量が小さい外膜タンパク質であり、PorA欠損変異株ではSigPシグマ因子の発現がほとんど検出されないことがわかった。この結果はPorX欠損変異株でSigPが検出されないことと類似しており、PorAがPorXY-SigPシグナル経路に関連する調節タンパク質である可能性が出てきた。PorAは外膜タンパク質であり、T9SS CTDをもつタンパク質PorAの役割を明らかにすることは「T9SSがどのように発現調節されているか」の解明につながる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)ECFシグマ因子SigPによって発現調節されるT9SS構成遺伝子群の発現をPorA欠損株にて転写レベルと翻訳レベルで調べることでPorAがこれらのT9SS構成遺伝子群の発現を制御しているかどうかを調べた。 (2)PorA欠損株から復帰変異株を分離し、それらの全ゲノム配列を明らかにし、変異遺伝子を同定した。センサー・キナーゼPorYの細胞内ドメインのアミノ酸置換を生じる変異であった。 (3)野生株のPorAはA型リポ多糖(A-LPS)と結合した形(A-LPS結合型)で外膜上にあるが、一部はA-LPSと結合せずにプロ型の形で存在する。T9SS構成タンパク質PorKの変異株ではプロ型のPorAのみ存在し、SigPの発現量も野生株より多いことがわかった。すなわち、プロ型PorAはシグナリング分子だが、A-LPS結合型PorAはシグナリング分子ではない可能性が出てきた。プロ型PorAからA-LPS結合型PorAへの転換はT9SS構成タンパク質の一つ、PorUプロテアーゼによっておこる。もし、T9SS機能が低下すれば、PorUは減少し、その結果、プロ型PorAが増加し、PorXY-SigPシグナル経路が活性化する。この活性化はT9SS構成タンパク質を増加させ、T9SS機能が回復するというフィードバック制御の可能性を検証した。 (4)PorAの構造を解明するため、PorAタンパク質を大腸菌で大量に発現させ、精製を行った。精製PorAの結晶化を行い、X線結晶構造解析を行った。T9SS CTD領域を欠くPorA(PorA-N)については結晶化に成功し、構造解析の結果、1型線毛のFimHサブユニットとの構造類似性があることがわかった。 (5)本研究期間の初年度に上記の研究成果をScientific Reports誌に発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度はPorAとPorYとの相互作用の詳細とPorAに結合する外界の物質の同定に焦点を当てて研究する。 (1)PorAとPorYとの関係:PorA欠損株からのgain-of-function変異株の解析からシグナル伝達においてPorYの上流にPorAが位置することがわかったことから直接、PorAとPorYが相互作用する可能性が出てきた。この可能性を検討するため、(a) 内部領域にHisタグを導入したPorA(PorA::Hisタグ)遺伝子を作製し、ΔporA ΔporK株に導入する。この株からニッケルカラムにてPorA::Hisタグタンパク質を精製し、そのタンパク質画分にPorYがあるかどうかを抗PorY抗体を用いたイムノブロットにて検討する。(b) もし、上記の実験でPorAとPorYとに直接的な相互作用がみとめられた場合、細菌のアデニル酸シクラーゼのT18およびT25ドメインを用いたtwo-hybrid法にてPorAとPorYのどの領域が結合に関与しているかを詳細に検討する。もし、PorAのCTD領域とPorYとが相互作用するのであれば、A-LPS結合型PorA(CTD領域を欠失している)はPorYへのシグナリングに関与しない分子であることが示唆される。 (2)外膜上のプロ型PorAの機能:PorUプロテアーゼの認識領域を欠損したPorAを構築し、このPorU非認識PorA株でT9SSが正常に機能するかどうかを調べる。このPorU非認識PorA株ではA-LPS結合型PorAは形成されないことからプロ型PorAがシグナリング分子として機能するかどうかが検証できる。 (3)外膜上のPorAに結合する物質の同定:ニッケルカラムを用いてPorA::Hisタグタンパク質を精製し、TOF-MAS解析を行うことでPorAに結合している物質を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品費を節約して使用したため、101,630円ほど次年度使用額が生じた。この金額は消耗品費として使用する予定である。
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