p63(TP63)タンパク質が特異的エンハンサーに結合すると、クロマチン再構成が起こるとともに、その部位のヒストンアセチル化が誘導される。このようなエピゲノム制御により、p63は表皮分化遺伝子の転写活性化する。最近の研究では、p63はスーパーエンハンサーを形成し表皮・顎顔面の細胞分化を誘導する主要な分子であると理解されている。本研究では、ヒストンアセチル基転移酵素活性を持ち転写因子を集合させる分子p300がp63と結合することから、このp63‐p300結合がヒストンアセチル化(ブックマーキング機能)に重要であると考え、この二分子間の相互作用に関する解析を行った。 前年度までの実験で、p300を四つのセグメントに分割し、核移行シグナルをN末端に持つ形で3コピーのFlagタグ(3xFlag)を付けて発現させた。一方、p63には1コピーのHAタグを付けて発現させ、トランスフェクション後免疫沈降とウエスタンブロットにより分子会合を調べた。本年度は検出効率を上げるためp63には3xHAタグをつけて発現させた。さらに、これまでの実験で狭めた各分子の候補結合ドメインに関して、欠失変異体を作成して実験を行った。 その結果(1)p300の活性中心を含むセグメントで、基質結合を調節するとされる領域がp63への親和性を持つこと、(2)p63分子(ΔNp63α)のC末端領域にp300親和性配列がある、ことが示唆された。しかし、Flag抗体による解析とHA抗体による解析が一致しない例があり、タグの電荷や立体障害の影響が推測された。また、各分子には複数の親和性領域が検出された。タグの検討や異なる実験系での確認が必要である。
|