研究課題
本研究はアメロジェニン・GRP78複合体が免疫応答や創傷治癒等に与える影響、およびそこに至るまでの分子メカニズムを解明するため、複合体の構造解析により複合体の核内移行の機序や生理的機能を解明することと、またGRP78を誘導するテプレノンにより、人為的にこの複合体の活性増強が可能かを検証することを目的としている。これらの結果をもって、テプレノンとアメロジェニンの複合投与による新しい歯周組織再生療法を開発すると共に、歯髄の再生に応用可能か否かについて研究の展開を図る。現在までの研究成果は以下の通りである。アメロジェニンで前処理したマクロファージのMHC II発現抑制は、T細胞との混合リンパ球反応試験において、T細胞の活性化マーカーであるCD25、CD69の発現量、T細胞増殖能、およびCD4陽性T細胞からのIL-2の産生量を低下させ、T細胞活性を抑制した。アメロジェニンがCIITAの転写を抑制しているのでないかと考え、ヒストン修飾によるクロマチン構造変換に焦点を当て、クロマチン免疫沈降法でヒストン修飾の有無を解析した。その結果、アメロジェニン刺激によりCIITAプロモーターIV領域のH3K27アセチル化、H3K4トリメチル化(ユークロマチン化:転写活性の促進)が抑制を受けた。つまり、アメロジェニンは早期にマクロファージ核内のクロマチン構造を変換し、ユークロマチン化を抑制することでCIITAプロモーターIV領域の転写・翻訳を阻害し、MHC II分子の細胞表面発現やヘルパーT細胞の活性を抑制することを解明した。
3: やや遅れている
培養細胞の細胞機能解析においてアメロジェニンの標的の詳細が判明しつつあるが、動物実験と構造解析の成果は遅れているため、上記区分とした。
歯周組織再生療法で臨床応用されているアメロジェニンは抗原提示を抑制することで、Th1細胞による細胞性免疫を中心とした免疫応答の発動を制御し、結果的に外科処置後の創傷治癒を促進させている可能性を見出した。アメロジェニンによるCIITA発現抑制が判明したため、今後は、テプレノンによるGRP78の強発現とアメロジェニンが歯根膜機能に相乗的に作用すると考え、ヒト初代培養歯根膜細胞(hPDLCs)を用いてこれら複合刺激が歯周組織再生に応用可能かを検討する予定である。
【理由】本年度は培養細胞実験が中心で、経費のかかる動物実験がやや遅れている。動物実験の研究を次年度中心に行なうため、これを次年度に繰り越した。【使用計画】歯周組織再生の評価を検討するため、ラットの歯槽骨に人工的骨欠損を作製する、または結紮糸により歯周炎誘導性骨吸収を惹起させ、その部位にテプレノンおよびアメロジェニンを投与後、飼育を行なう。経時的な炎症の抑制や血管新生の度合い、および歯根膜遊走による歯周組織再生の程度を免疫組織化学的に解析し、同時に副作用による異常所見や周囲組織の癌化の有無等を経時的に観察する。併せてマウス歯周炎モデルに対する効果も検討する。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
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