研究課題/領域番号 |
20K09965
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研究機関 | 神奈川歯科大学 |
研究代表者 |
向井 義晴 神奈川歯科大学, 大学院歯学研究科, 教授 (40247317)
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研究分担者 |
石澤 将人 神奈川歯科大学, 大学院歯学研究科, 助教 (60846989)
富山 潔 神奈川歯科大学, 大学院歯学研究科, 准教授 (90237131)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 象牙質 / シングルセクション / バイオフィルム / 脱灰 / TMR |
研究実績の概要 |
本申請課題の目的は、象牙質シングルセクション法とバイオフィルムモデルを用いて多種イオンの再石灰化効果を明らかにすることである.根面齲蝕研究モデルの多くは酸による脱灰モデルであり,バイオフィルム環境下において作製されたモデルは少ない.本年度は象牙質シングルセクションと口腔内多種細菌からなるバイオフィルムモデルを使用することにより、表層下脱灰病巣モデルの確立を試みた(神奈川歯科大学研究倫理審査委員会承認番号:第496号).ウシ下顎中切歯の歯根部から厚さ300 µmの試片を切り出し,ボンディングシステムで包埋した.その後,歯根表面側を#2,000の耐水研磨紙で削合し象牙質被験面を露出させた.実験群は培養時間により,①24h, ②48h, ③96h, ④192hの4群とした.シングルセクション上へのバイオフィルム形成はExterkateらの方法に従い,刺激唾液をunbuffered McBain(0.2% sucrose含有)培養液に加えて嫌気条件下で10時間培養し,その後は唾液非含有培養液を用いて培養を行った.培養期間終了後,シングルセクション試片をTransversmicroradiography (TMR)分析しミネラル喪失量(IML)および病巣深度(LD)を測定した.その結果,シングルセクション上にはバイオフィルムが形成されていることが確認された.TMR分析から96hおよび192hでは明瞭な象牙質脱灰病巣を確認することができた.IMLとLDは,培養時間と比例して増加が認められた.本研究では2つのモデルを組み合わせることにより口腔内環境と近似した状況で象牙質脱灰病巣を作製できることが確認された.今後,本モデルを使用して脱灰の進行や停止ならびに再石灰化の様相を観察していく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の令和2年度研究計画では象牙質シングルセクションを使用しバイオフィルムで形成された病巣と酸性の脱灰溶液を用いた病巣進行プロファイルの違いをTMRで比較することであり,初期段階における進行スピードは溶液により形成される病巣が早いが最終的には両者とも表層下脱灰病巣が形成されるものと思われた.バイオフィルムで形成された病巣と酸性溶液で形成された脱灰病巣の進行速度を比較するにあたり,酸性溶液で形成されたシングルセクション脱灰病巣のデータは当方のこれまでの研究で既に得られていたため,本年度はバイオフィルムを用いた経時的な病巣形態を比較した.その結果,ミネラル密度の高い表層のピークは酸性溶液に比較して若干内側寄りに形成されることが確認されたが,96h及び192hでは明瞭な象牙質脱灰病巣を確認し,IML及びLDは,培養時間と比例して増加が認められた.バイオフィルムモデルとシングルセクションモデルを組み合わせることにより,口腔内環境と近似した状況で象牙質脱灰病巣を作製できることが確認されたことから初年度の目的は概ね達成できたものと考えられた.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,①バイオフィルムの除去あるいは栄養供給停止による脱灰誘発環境変化の観察,ならびに②各種イオン溶液処理によるバイオフィルム再石灰環境の誘導を検討する.具体的な方法として①ではバイオフィルムの除去や栄養供給の停止による活性変化を乳酸産生量,総生菌量,細菌叢の分析により検討し,またシングルセクションとTMRで脱灰様相を観察することとする。②では,フッ化物,ナトリウム,ホウ素,アルミニウム,シリカ等のイオン添加再石灰化溶液でシングルセクションに形成された脱灰病巣を処理し,総生菌量,再石灰化様相を観察する.予想される結果として,①では両手法により酸産生量は減少するものと思われ,バイオフィルムの除去により総生菌数は減少し,栄養供給の停止では細菌は休眠状態となるものと思われる.また,TMRにより脱灰の停止が確認できるものと思われる.②では抗菌効果、無機質誘導効果あるいは中和効果のあるイオンにより濃度依存的な経時的再石灰化誘導が観察されるものと考える.最終年度は栄養供給再開によるバイオフィルムの再形成と脱灰誘導再活性化の検討を研究課題とし,結果がまとまり次第,論文作成を開始する.具体的な方法は,再石灰化環境が確立された状態で象牙質内に侵入した細菌が休眠状態にあるか,ほぼ死滅しているかを栄養供給を再開することにより,TMRならびに酸産生量等から確認することとする.予想される結果は,再石灰化環境が確立された環境であっても休眠状態の細菌は存在することが確認できるものと思われ,また,それらが再活性化する可能性も確認できるものと考えられる.
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