研究課題/領域番号 |
20K09972
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
平石 典子 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 講師 (20567747)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フッ化物 / 固体核磁気共鳴装置 / 歯質ミネラル / う蝕予防 / フルオロアパタイト / X線回折 |
研究実績の概要 |
ウシの歯はヒトの歯の代用品として歯科医学の研究に用いられているが、ウシの歯のエナメル質と象牙質の結晶性ナノ構造の違いを、X線回折(XRD)と固体核磁気共鳴(SS-NMR)を用いて前年度より、詳しい評価を行った。RIETAN-FPを用いたRietveld refinement法によるXRD解析は、外部委託により行った。結晶子サイズと微小ひずみはHalder-Wagner法により分析した。リートベルト解析の結果、エナメル質は両種とも象牙質よりも結晶子サイズが大きく、微小歪みが小さいことがわかった。種比較では,象牙質,エナメル質ともにウシアパタイトの方がヒトアパタイトよりも結晶サイズが小さく,微小歪みが大きかった。2次元HetCorスペクトルは,象牙質表面では無機HPO4-イオンが多く,エナメル質では格子サイト内の水酸基が支配的であることを示した.水酸基の強度は象牙質、エナメル質ともにウシよりヒトで大きく検出された。結論として、ヒトとウシでは、結晶子プロファイルに違いがあるものの、研究結果を慎重に解釈すれば、ウシ歯質が、ヒト歯質の代用品として使用可能と考えられた。ウシ歯質が幼若ミネラル(2歳)で、ヒト歯質が成人(20歳以上)からの採取のため、成熟したミネラルと考えれば、成人と、若年者の歯質のフッ化物の反応性も顕著な差異はないと考えられる。 高濃度フッ素(1450ppm)が推奨されているが、これまでの予備実験では、特にエナメル質ではフッ化物の取り込み・反応性が少ないと判明している。そこで、最高濃度の承認歯科材料である、フッ化ジアンミン銀(SDF)で処理したウシのエナメル質と象牙質におけるフッ化物化合物の生成について検討した。19F MAS NMRでは,エナメル質よりも象牙質で顕著な信号強度が検出され,エナメル質と比較して象牙質に対するSDFの反応性が高まっていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
固体NMRによる解析は、理化学研究所NMR研究開発部門(NMR応用利用グループNMR先端応用外部共用チームの技術的サポートにより、測定および分析方法を遂行している。理化学研究所NMR研究開発部門入構について、新型コロナウイルス感染症拡大防止の体制続行のため、研究所への入構は制限が緩和されているもおの、来所は可能な限り避け、試料を準備し先方へ分析依頼をする形式になった。合わせて、歯質ミネラルの結晶的解析を並行して行うため、Rietveld refinement法によるXRD解析は大変有効である。 フッ化物については、昨年度は、最大フッ化物濃度の、リン酸酸性フッ化ナトリウムに注目し、19F- NMR法分析で検証実験を行った。酸性から中性への溶液pH調整で、歯質エナメル・象牙質への、反応性物質を分析した。エナメル質へのフッ化物の取り込みは、濃度依存性ではあるが、酸性ではやや検出できるものの、中性では微少にとどまった。 そこで、最高濃度のフッ化ジアンミン銀(SDF)を用い、SDF処理試料の19F NMRスペクトルは、フルオロハイドロキシアパタイト(FHAp)、CaF2やフッ素置換炭酸塩などのフッ素化合物を示した。SDF処理試料では、格子トンネル内でF-イオンがOH-イオンに置換していることが示された。SDF処理試料のSEM観察では、エナメル質と比較して象牙質で顕著な多量の沈殿と粒子が観察された。これらは、国際歯科雑誌Dent Mater (impact factor 5.304)に以下タイトルでアクセプトされた。Solid-state NMR spectroscopy measurement of fluoride reaction by bovine enamel and dentin treated with silver diammine fluoride
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今後の研究の推進方策 |
分析に必要な、小児の幼弱エナメル質の採取がやはり困難である。 本年度のXRD分析・固体NMR分析の結論として、ヒトとウシでは、結晶子プロファイルに違いがあるものの、研究結果を慎重に解釈すれば、ウシ歯質が、ヒト歯質の代用品として使用可能と考えられた。ウシ歯質が幼若ミネラル(2歳)で、ヒト歯質が成人(20歳以上)からの採取のため、成熟したミネラルと考えれば、ウシの歯が、小児の歯質に類似した組成、結晶的特徴を持つと考えられる。ウシ歯質を使い、各種フッ化物に関して、それら歯質への反応性の違いを評価する.ために、生成物による19F- NMR分析で検証実験を行う。フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カリウム(KF)フッ化スズ(SnF2)、モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)、リン酸酸性フッ化ナトリウム溶液(APF)を対象に調整予定である。pHはAPFが酸性pH3,5、またSDFはアルカリ性であり、これらpHの大きな違いは反応性に影響をあると考えられ、反応性をエナメル質・象牙質で比較検討したい。 課題では、フッ素の効果関連の分析解析技術として、19F- NMR分析は、原子レベルでの、化学理的性状分析を行う上で、必要である。外部施設(早稲田大学物性計測センターラボ)を検討中である。スピン速度は遅いものの、大きめのrooterに試料を入れるタイプを交渉中である。理化学研究所NMR研究開発部では、これまで同様、31P- NMR分析は可能とのことで、ミネラルの性状分析が続行可能と考える。 今年度は、コロナ感染予防制限が収束すれば、国際学会参加を実行し、成果発表の機会を得たい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題では、フッ素の効果関連の分析解析技術として、高度な分子、原子レベルでの、化学理的性状分析が必要であると考える。固体NMRによる解析は、理化学研究所NMR研究開発部門(NMR応用利用グループNMR先端応用外部共用チームの技術的サポートを得ているが、課題のテーマである19FNMR分析可能な機器が使用不可となり、新たに、有償利用できる施設を模索しており、次年度使用額が生じた。 フッ素の効果関連の分析解析技術として、19F- NMR分析は、原子レベルでの、化学理的性状分析を行う上で必要であるため、外部施設(早稲田大学物性計測センターラボ)を検討中である。スピン速度は遅いものの、大きめのrooterに試料を入れるタイプを交渉中である。理化学研究所NMR研究開発部では、これまで同様、31P- NMR分析は可能とのことで、ミネラルの性状分析が続行可能と考える。
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