本研究の目的は、歯髄炎症時もしくは象牙芽細胞へ分化する過程におけるC-X-C motif chemokine receptor (CXCR)4の機能について検索するものである。特に歯髄においては炎症とそれに対する防御としての石灰化との間には密接な関係があり、その機能の解析の一助として、まず炎症性サイトカインや、炎症性メディエーターによる刺激時のCXCR4の発現について歯髄培養細胞を用いて検索した。その結果、リアルタイムPCR・細胞蛍光免疫染色にて、IL-1bやブラジキニンが、刺激後数日でmRNAおよびタンパク質発現を上昇させることを見出した。続けてウェスタンブロット法にて検索し、IL-1bが時間依存的にCXCR4タンパク質を増加させることが見いだされた。しかしながら石灰化誘導培地やPGE2の影響については差がみられなかった。炎症性刺激によりCXCR4を増加させた細胞で、細胞内カルシウムイオン濃度の変化がみられるか、CXCL12、MIF、他プロテアーゼで検討したものの、無刺激時と比べて有意に増加させるものは確認されなかった。 新鮮抜去歯を炎症ステージで分けて免疫染色を行うと、CXCR4は炎症程度の強い部位では発現は多く、逆に第三象牙質が形成された正常歯髄様組織では発現細胞が今のところ少ない。仮説として 細胞内カルシウムイオンの増加が引き起こす第三象牙質の形成 に対しては今のところCXCR4は寄与しておらず、むしろ炎症の進展時に発現が強くなると現在の結果からは言える。また、細胞内カルシウムを増加させないという結果からも、炎症の進展に導くがゆえにカルシウムイオンに変化を来さないという可能性はある。
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