研究課題/領域番号 |
20K09998
|
研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
宮崎 隆 昭和大学, 歯学部, 特任教授 (40175617)
|
研究分担者 |
柴田 陽 昭和大学, 歯学部, 教授 (30327936)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | エナメル質 / 低温アニーリング / 再生 / 単斜晶アパタイト |
研究実績の概要 |
従来から初期齲蝕の治療法としてはフッ素塗布を行い,長い時間をかけて再石灰化を期待するのが唯一の機械的切削を行わない治療方法であった.本研究では,エナメル質の結晶構造を胎生期の状態に“初期化”させ,再生能力を高めることにより歯を切削することなく非侵襲的にエナメル質齲蝕を再生することを目指した.成熟エナメル質のアパタイト結晶は誘電率の低い六方晶であり,再生能力に乏しい.一方,胎生期のエナメル質は非晶質ながら誘電率の高い単斜晶の対称性を示しているため,石灰化を促進しエナメル質全体の発生に関与する.我々はハロゲンランプと過酸化水素を用いて漂白したエナメル質は結晶レベルで部分的な欠陥を生じ,イオン導入が活発になることを発見した.エナメル質の六方晶構造に部分的な欠陥を作ると結晶は最も安定な状態に自然回復しようとする力が働き(アニーリング)化学両論的アパタイト構造である単斜晶に遷移するが,主に炭酸イオンの自然導入により六方晶へ再遷移する.このためアニーリングと同時に ケイ酸イオンとフッ素イオン二種類の陰イオンを導入.単斜晶状態が維持できるため,エナメル質は胎生期の石灰化能力を発揮し,エナメル質初期齲蝕の著しい再石灰化が見られた.エナメル質の結晶遷移についてはHRTEMによる画像を高速フーリエ変換によりシミュレーションを行い,単斜晶アパタイトの存在を明らかにした.さらにラマン分光分析により結晶遷移が生じたと推定されるエナメルサンプルを経時的に評価し,六方晶と単斜晶アパタイト相対比の変化を間接的に求めることが可能となった.これらの結果は従来の罹患歯質切削に依存した歯科治療と大きくことなる新たな齲蝕修復治療の可能性を示唆している.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
六方晶と単斜晶アパタイトの違いはオングストロームレベルの僅かなひずみでありこれまでの透過電顕観察では区別することが難しかった.しかしながら,当初の計画通り,透過電顕の画像分解レベル以下の領域であっても高速フーリエ変換を応用した画像解析とシミュレーションによってっこれまで不可能であった六方晶と単斜晶アパタイトの区別が可能になり,また単斜晶アパタイトの増減をラマン分光で解析できたことは予定を上回る成果である.しかしながらコロナ禍によって国際協力関係が制限され,特に国際学会などでの研究成果発表ができなかった.
|
今後の研究の推進方策 |
再生エナメル質の力学的特性は天然歯と同等であることが求められる.エナメル質を材料レベルで評価するため,生物学的構造に左右されないマイクロ‐ナノスケールで測定可能なナノインデンテーション法を用いる.球状圧子を用いたナノインデンテーション法では,局所(材料レベル)の応力ひずみ曲線から降伏点強度を議論することができると考えられる.またコロナワクチン接種の普及に伴い国際交流が再開すると予想されるため,本年度後半には国際学会での情報交換や研究成果発表を行う予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年来続いている世界的なコロナ禍で国際活動が著しく制限され,共同研究や国際活動の予定が大幅に遅延しているため,主に出張旅費について当初予定額と大きな違いが生じたものと考えられる.今後の国際活動再開に伴い差額は調整されていくものと予想される.
|