研究課題/領域番号 |
20K10022
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研究機関 | 松本歯科大学 |
研究代表者 |
中村 浩彰 松本歯科大学, 歯学部, 教授 (50227930)
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研究分担者 |
堀部 寛治 松本歯科大学, 歯学部, 助教 (70733509)
雪田 聡 静岡大学, 教育学部, 准教授 (80401214)
原 弥革力 松本歯科大学, 歯学部, 助教 (90846635) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 抜歯窩治癒 / M2マクロファージ / 骨原性細胞 / 免疫組織化学 / RNAscope |
研究実績の概要 |
マウスにクロドロネート-リポソームを投与してマクロファージを枯渇させ、その後に上顎第一臼歯を抜去した。2日、4日、7日後に上顎骨を採取し、抜歯窩治癒過程を形態学的に解析した。マイクロCTにて骨形成を観察後、組織学的にはH-E染色、骨芽細胞系細胞のマーカー、マクロファージマーカーによる免疫染色を行い検討した。さらに、抜歯部位を含めた組織からmRNAを採取し、real-time PCR法にて炎症性サイトカイン発現と骨芽細胞分化に関連するサイトカイン発現を比較した。肉眼的観察ではクロドロネート投与群では、抜歯窩の上皮の被覆が不十分であり、7日後においても歯槽骨の露出がみられた。マイクロCT解析により、抜歯後7日のコントロール群では抜歯窩内に骨形成を示す不透過像がみられたのに対し、クロドロネート投与群では、不透過像が著しく減少し、骨形成が阻害されていた。組織学的観察により、抜歯4日後のクロドロネート投与群では抜歯窩内には血球系細胞や壊死細胞が残存しており、7日後の骨形成もわずかに認められるのみであった。また、抜歯窩の歯槽骨には、骨細胞を含まない骨小腔が多数認められた。免疫組織化学的検討により、クロドロネート投与群ではF4/80陽性マクロファージ、CD206陽性M2様マクロファージは著しく減少しており、クロドロネートによりマクロファージが枯渇していることが確認できた。コントロール群においては、4日後に多くのa-SMA陽性細胞の侵入がみられ、7日後にはRunx2およびOsterix陽性骨芽細胞が多数認められた。一方、クロドロネート投与群では4日後のa-SMA陽性細胞、7日後のRunx2およびOsterix陽性細胞は著しく少なかった。さらに、RNAscpoeによりTGF-b発現細胞を組織学的に検索したところ、マクロファージ以外に間葉系細胞においても陽性反応が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去の論文においては抜歯と同時にクロドロネート-リポソームを投与し、抜歯窩治癒過程には影響を及ぼさないとの報告があったため、抜歯窩治癒過程におけるマクロファージの役割について解析するためには、あらかじめマクロファージが枯渇した状態を維持することが重要であると考えた。そこで、抜歯3日前にクロドロネート-リポソームを投与し、その後も3日後ごとに投与することにより、マクロファージを枯渇させる実験系を確立することができた。このことは脾臓においてもF4/80陽性細胞が激減していることにより確認している。この実験系によるマクロファージ枯渇により、抜歯窩の治癒および骨形成が抑制されていたことから、抜歯窩治癒過程における組織修復型のM2様マクロファージの重要性を明らかにすることができた。また、抜歯窩組織を用いたreal-time PCRにより、炎症性サイトカインであるTNF-a、IL-1b、IL-6発現から抜歯直後は炎症反応が亢進しているものの、徐々に炎症反応は消退することも確認できた。これまで、抜歯窩治癒過程でM2様マクロファージがTGF-bを産生することを報告しているが、他にも骨組織修復に関わるサイトカインが発現しているのではないかと考え、real-time PCR により検討したところ、コントロール群ではTGF-b、BMP-2、PDGF-a、PDGF-b発現が上昇しているにもかかわらず、クロドロネート投与群においてはこれらのサイトカイン発現は有意に低下していた。以上のことから、マクロファージの枯渇による抜歯窩治癒の遅延は骨形成を促進するサイトカイン発現の減少と相関していることが示唆された。しかしながら、発現上昇するサイトカインを産生する細胞については同定されていない。
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今後の研究の推進方策 |
抜歯窩組織からmRNAを抽出し、real-time PCRを行った結果、TGF-bに加えて、BMP-2、PDGF-a、PDGF-bの発現も上昇していることが明らかとなり、抜歯窩治癒における骨形成には多種類のサイトカインが関与することがわかった。しかし、その発現細胞については不明であり、RNAscopeによる遺伝子発現の形態学的解析法を取り入れ、これまで免疫組織化学的には不可能であったサイトカインの発現について明らかにする。クロドロネート投与群においてエンドムチン陽性の血管侵入も減少していることがわかった。エンドムチンを高発現するH型血管が骨原性細胞の侵入に重要な役割を担っていることが指摘されており、抜歯窩治癒過程においても、a-SMA陽性細胞の侵入にH型血管が拘わっていることが推測される。抜歯窩治癒過程の初期においては、血管と未分化間葉系細胞の侵入が重要であるため、血管侵入とマクロファージの関連についても検討する。さらに、血管新生に拘わるサイトカインおよび間葉系幹細胞のマーカーであるPDGFレセプターに注目して解析する予定である。
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