研究課題/領域番号 |
20K10025
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
平田 恵理 北海道大学, 歯学研究院, 助教 (10722019)
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研究分担者 |
横山 敦郎 北海道大学, 歯学研究院, 教授 (20210627)
高野 勇太 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (60580115)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | カーボンナノホーン / インプラント周囲炎 / 抗菌作用 / 光増感剤 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,カーボンナノ物質の光線力学作用を用いて,近赤外光を照射した際に抗菌作用を発揮させ,インプラント周囲炎に応用することである.本年度は,さらに高い殺菌効果を得るため,光増感剤をカーボンナノホーン(CNHs)に修飾し,その効果を検証した. π拡張型ポルフィリン分子(rTPA)は700nm近傍の光を高い効率で吸収し,約50%の高い量子収率で一重項酸素を発生させる.このrTPAをアミノ化したCNHsとの間でアミド結合形成し,rTPA-CNHを得た.CNH-rTPAの熱重量分析を行ったところ,CNH-rTPA中のCNHとrTPAの割合がおよそ1:1であることが示唆された.CNH-rTPAの吸収スペクトルを測定したところ,可視光領域から近赤外光領域に渡るCNHの特徴的な吸収と,仕込み量の比率に比例した712nm近傍に特徴的なrTPAの吸収帯が観測された.次に,一重項酸素発生能を評価したところ,CNHs:rTPA=1:1のものが一番大きな一重項酸素産生能を示したため,以後の実験ではこの条件で作成したCNH-rTPAを用いた.また,rTPAはPBSなどの高いイオン濃度溶液中に単独で存在すると凝集形成し一重項酸素が抑制されるところ,CNHと複合化することで十分な一重項酸素発生能を保持することも明らかとなった. Streptococcus mutans,Aggregatibacter actinomycetemcomitanceの分散液にrTPA-CNHを添加して10分間730nmの光を照射したところ,どちらの菌も半分以上の菌数減少がみられた.また,細胞毒性を調べるために,線維芽細胞の培養実験を行った.細胞播種4時間後にCNH-rTPAを添加し,10分間光照射した結果,CNH-rTPA添加および光照射による細胞数の減少はみられなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,CNHsに新規光増感剤であるrTPAを結合させたrTPA-CNHを開発し,その材料的な評価を行った.このrTPA-CNHは近赤外光照射によって殺菌作用を持ち,線維芽細胞には影響を与えないことが明らかになった.これまでに,CNHsを泳動電着によってチタン(Ti)表面に修飾する方法を確立しており,rTPA-CNHをTi表面に修飾することによって光応答性ナノカーボンインプラントの開発が可能となる.これらの結果は,rTPAの開発についてはNPG Asia Materials誌,Nanoscale Advances誌にて発表し,rTPA-CNHsについては第51回日本口腔インプラント学会学術大会,第11回ナノカーボンバイオシンポジウムで発表した. また,本研究の目的の一つである,カーボンナノ物質の体内動態の検索についても,報告を行った.単層カーボンナノチューブ(SWNT)を独立膜化し,ラット頭蓋冠の骨欠損部を被覆したところ,被覆していない対照群と比較して早期に骨形成が確認された.また,ラマン顕微鏡でSWNTを追跡したところ,周囲組織にSWNTはほとんど分散されず,埋入部位にとどまっていることが明らかになった.この結果より,rTPA-CNHをTiにより強固に結合することができれば,周囲組織への分散を抑えることができると考えられた.この結果はACS Biomaterials Science & Engineering誌に発表した. CNHをTi表面に修飾したCNH/Ti上で培養したマクロファージは,M2マクロファージへの分極する傾向があることが明らかになった.rTPA-CNH/Tiは組織修復作用を合わせもつことができる可能性が示唆された.この結果は,第51回日本口腔インプラント学会学術大会,第11回ナノカーボンバイオシンポジウムで発表した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,rTPA-CNHsをTi表面に修飾したrTPA-CNH/Tiを開発する.Ti表面には,これまでに報告した泳動電着法によって修飾することが可能であるが,抗菌作用を発揮するための濃度等条件を検討する必要がある.rTPA-CNH/Ti上で細菌培養を行い,抗菌作用を確認する.さらに,細胞培養を行い骨芽細胞や線維芽細胞への影響を探索する.ラット歯肉に埋入した後に近赤外光を照射して周囲組織への影響を評価する.これによって,生体材料としての安全性を確認していく予定である.また,rTPA-CNHについては,論文投稿準備中である.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行のため,全ての学会がリモート開催になり,計上していた旅費を使用しなかったため.また,研究代表者が,産休・育休のために12月から3月まで研究を中断していたため.翌年度分として請求した助成金と合わせて実験のための消耗品で使用する予定である.
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