歯の喪失と認知機能が関連することは従来疫学研究で示されている。申請者らは歯の喪失が脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現を低下させ認知機能低下を引き起こし,アルツハイマー病(AD)などの認知症に似た病態を惹起することを実験的に明らかにした。一方で,アルツハイマー病(AD)など認知症患者の多くは脳血管障害を伴うことが明らかとなってきたことから,歯の喪失が認知機能低下を引き起こすメカニズムを脳血管機能に着目して明らかにできるのではと着想した。本研究ではまず,in vitroでBDNFが脳血管機能へ及ぼすメカニズムを検討する。次にマウスを用いた実験により歯の喪失が脳血管機能へ及ぼす影響を検討することにより,歯の喪失がADなどの認知症と同様の脳血管障害を引き起こすメカニズムを分子生物学的に解明することを目的とした。実験動物として当初の予定通りC57/BL6 Jclマウスを用いた。臼歯の抜歯を行うことで実験的な歯の喪失を生じさせ,口腔機能を低下させた実験群を設定した。観察期間後,オープンフィールド試験やバーンズ迷路など学習・記憶能など測定する行動実験を中心に行った。その後,脳組織を採取しウェスタンブロット解析や免疫組織化学染色を行った。その結果,実験的な歯の喪失により,学習記憶能が低下し,脳血管機能に重要な血液脳関門(BBB)のタイトジャンクションに影響を与えることが明らかとなった。歯の喪失によるBBBへの影響を報告はこれまでになく,新たな知見が得られた。
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