研究課題/領域番号 |
20K10049
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
野崎 浩佑 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (00507767)
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研究分担者 |
陳 鵬 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 助教 (70708388)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | チタニア / 光触媒作用 / 結晶成長制御 |
研究実績の概要 |
歯科疾患の多くは,細菌感染症によるものであり,抗菌性生体材料の開発が望まれている.酸化チタンは,歯科用インプラント材料のコーティング材や,義歯洗浄剤,ブリーチング材料として用いられている.酸化チタンの抗菌性メカニズムには,UV照射による材料表面での酸化還元反応によるものが多く,その高機能化が求められている.酸化チタンの高機能化には,異種金属を表面に担持させ,電子の流れを制御するものや,異種元素を固溶し,吸光特性を変位させることにより達成される.しかしながら異種元素の使用は,生体材料としての安全性を加味すると,主種の検討が必要となる.そこで,酸化チタンの構造に着目した検討がなされている.酸化チタンは,一般的な合成を行うと{101}面が約95%を占めるが,適切な阻害剤を用いることにより{001}面が露出した酸化チタンを合成することが可能となる.{001}面は{101}面と比較して,表面自由エネルギーが高いことから種々のイオンやたんぱく質が吸着しやすく,また,その光触媒作用が高いことが報告されている.また,近年では数nmのチタニアナノ粒子を基礎とした高機能化チタニアが利用されていることから,チタニアナノシートのさらなるサイズ制御が必要と考えられる.本年度は,このような酸化チタンの合成を試み,その光触媒活性を評価した.光触媒活性の評価として,メチレンブルー溶液の脱色試験を行った.結晶面を制御することにより光触媒活性が異なり, NS0.3が最も光触媒活性が高いことが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
チタニアナノシートの出発原料として,ヘキサフルオロチタン酸アンモニウムとチタンブトキシドを使用した.F/Ti比が0.3,0.5,0.8,1.0,1.5,2.0となるようにチタンブトキシドを滴下し,混和した.得られた前駆体を水熱合成した後に,蒸留水およびメタノールで超音波洗浄し,凍結乾燥を行った.作製した粉体をXRDにて解析した結果,いずれの試料もアナターゼ型チタニアに一致するピークを有していた.また,NS0.3になるに従い,ピーク幅の増加が認められた.TEM観察の結果,F/Ti比の減少に伴い,長さおよび厚みが減少し,NS0.3では長さ6.3nm厚み4.9nmとなり細小となった.UV-visによる吸光度の結果より,Tauc plotを作製し,光学的バンドギャップを求めたところ,いずれのチタニアナノシートとも3.2eVであった. 光触媒活性の評価のため,メチレンブルー溶液を用いた脱色試験を行った.なお本研究では、対照群としてチタニアナノ粒子を用いた.高圧水銀ランプを用いて,2.5mW/cm2になるよう試料を静置し,20℃にて紫外線(UV)照射を行った.なお,対象群として,同様に静置した試料にアルミホイルを用い遮光し,UV照射を行った.上清を10倍に希釈し,630nmにおける吸光度を,マイクロプレートリーダーを用いて測定した.MBの吸光度を求めたところ,いずれの試料も経時的に吸光度が減少し,MBの分解が促進していることが明らかとなった.また,480分後では,NS0.3が最も優れ,次いでNS0.5 ,NS1.0,NS0.8,NS1.5,NS2.0,チタニアナノ粒子の順で分解効率が減少した.以上より,本手法にてナノメートルサイズのチタニアナノシートの作製が可能であり,NS0.3が最も光触媒活性が高いことが示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,チタニアナノシートにより生じる酸化還元反応が細胞に及ぼす影響を再調査する.また,本研究ではチタニアナノシートによる高機能化が明らかとなったが,光触媒作用のみならずナノシート化により,細胞機能を制御することが示唆された.チタニアの光触媒作用の本体は,ナノシート表面で繰り返される電子供与であり,それらを制御することがチタニアの生体材料へ応用した際の高機能化に続くと考えられるが,NS1.0においてUV非照射にも関わらずその反応が促進したことは今後の検討課題と考えられる.また,そのサイズ効果に関しても検討する必要があり,今後数ナノメートルサイズのチタニアナノシートの作製を試み,その光触媒活性や生体親和性の評価が必要となる.また,歯科用インプラントのように体内埋め込み型のバイオマテリアルを設計する上で,粉体のような試料は適応することが困難で,その応用方法の開発が必要である.ナノ粒子のような試料はコーティングによる応用が検討されているが,本研究により得られた結晶方位が制御された材料の場合,その結晶方位の特徴を活用可能なコーティング法の利用が考えられる.また,ナノ粒子の細胞毒性は幅広く報告されており,本研究成果のような数十ナノメートルの大きさによる細胞毒性が懸念される.今後,チタニアナノシートの高機能化とともに安全な生体材料として利用する上でその材料設計の指針を提示することが必要と考えられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究成果を幅広く発信するための論文発表が遅れているため,その費用として計上する予定である.
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