研究課題/領域番号 |
20K10050
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
上野 剛史 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 准教授 (30359674)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | インプラント / 表面電荷 / ゼータ電位 / タンパク吸着 / 骨芽細胞 |
研究実績の概要 |
チタン表面における表面電荷は、生体親和性に影響する重要な物理化学的特性の1つである。生体内のpHにおいて、チタン表面は負に帯電している一方、細胞接 着タンパクや細胞表面も負電荷であることから、両者に電気的な相互作用はない。本研究の目的は、チタンの表面電荷に着目し、これを実験的に変化させ、タン パク吸着への影響を明らかにすることである。マイクロラフ構造を付与したチタンディスクを0, 0.05, 0.1, 0.25, 0.5, および1.0Mの水酸化リチウム水溶液 (LiOH)に浸漬後、 XPS、SEM、および接触角計を用いて表面特性を評価し、さらにチタン表面のゼータ電位と等電点を計測した。また、細胞外タンパクの吸着 と、骨芽細胞様細胞であるMC3T3-E1細胞の接着量を評価した。XPSとSEMの結果から、LiOH処理をしても表面形状を変えることなくチタンの酸化被膜中にLiイオン が取り込まれたことが確認された。さらに、LiOH処理によりゼータ電位および等電点は上昇した。アルブミンおよびラミニンの吸着は、LiOHの濃度の増加と共に 増加した一方で、フィブロネクチンの吸着は0.25Mでの処理において最も高かった。骨芽細胞の初期細胞接着も0.25Mでの処理において最も高い接着量を示したこ とから、細胞接着量は吸着されたフィブロネクチンの量と関連していることが示された。本研究の結果は、チタンの表面電荷を変化させることにより、チタン表 面と細胞外タンパクの直接的な電気的相互作用を与えることができる可能性を示した。本研究は、より確実な骨組織および軟組織によるインプラント表面の封鎖 のために、表面電荷制御の最適化を目指すものであり、これまでの成果を論文にまとめている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、表面電荷制御の再現性を高める方法を検討した。先行の方法において、ゼータ電位計測時にエラーが生じることがあった。これは、Li イオンが測定 溶液中に拡散するという可能性が考えられたため、より確実にチタン酸化膜中にLiイオンを取り込む必要があると考えられる。この対策として、イオン注入法 を適用する予定としていたが、電気的な吸着方法によってLiイオンをチタン表面に吸着させることに成功し、その際のゼータ電位が 正電荷に変化することが確認できた。 2年目は、X線電子分光法(XPS)を用いて表面分析を行った。その結果、Liイオンが確実にチタン表面に取り込まれていることが確認され た。さらに、タンパク吸着においても良好な結果が得られ、条件設定に目処が立っている状況と言える。3年目に、ゼータ電位を測定する機械を有する会社の協力を得て、より確実な表面電荷の測定を行うことができた。これを以って材料の表面特性のデータを十分に収集することが可能になったといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
これまで、Liイオン濃度は1.0M以上の濃度では細胞のアポトーシスを誘導することや、タンパクの種類によって至適濃度が存在することをすでに報告しているこ とから、生物学的に有利な条件を選択するため、イオン濃度を電気的に制御することが必要になってくる。細胞毒性の観点から、イオン濃度をなるべく低く設定 し、かつチタン表面が正電荷にな るような条件を設定することが可能になれば、予定していた実験を遂行することが可能になると考えられる。 現在、数種類の電圧を用いてサンプルを作成し、アルブミンおよびフィブロネクチンの吸着量を調べ、その親和性を比較しながら再現性を確認しており、実験結果は確実に収集できている。今後はこれらの生物学的データおよび表面特性の評価結果を合わせて、本研究の成果として論文にまとめる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
Covid-19の影響により,所属機関での研究活動が縮小されてしまったことが、昨年度から使用予定額に満たなかった最も大きな理由と考えられる。具体的には、 実際 に実験をする大学院生の自宅待機期間が多かったことや、研究室や実験室を管理する方の出勤も制限されてしまったこと、加えて、共同研究者との現場での打ち合わせや施設使用もできなかったことなどが理由としてあげられる。しかしながら今後は、実験も順調に進んでいるため、効率的に助成金を使用させて いただく予定としている。
|