研究実績の概要 |
チタン表面における表面電荷は、生体親和性に影響する重要な物理化学的特性の1つである。生体内のpHにおいて、チタン表面は負に帯電している一方、細胞接 着タンパクや細胞表面も負電荷であることから、両者に電気的な相互作用はない。本研究の目的は、チタンの表面電荷に着目し、これを実験的に変化させ、タン パク吸着への影響を明らかにすることである。マイクロラフ構造を付与したチタンディスクを0, 0.05, 0.1, 0.25, 0.5, および1.0Mの水酸化リチウム水溶液 (LiOH)に浸漬後、 XPS、SEM、および接触角計を用いて表面特性を評価し、さらにチタン表面のゼータ電位と等電点を計測した。また、細胞外タンパクの吸着 と、骨芽細胞様細胞であるMC3T3-E1細胞の接着量を評価した。XPSとSEMの結果から、LiOH処理をしても表面形状を変えることなくチタンの酸化被膜中にLiイオン が取り込まれたことが確認された。さらに、LiOH処理によりゼータ電位および等電点は上昇した。アルブミンおよびラミニンの吸着は、LiOHの濃度の増加と共に 増加した一方で、フィブロネクチンの吸着は0.25Mでの処理において最も高かった。骨芽細胞の初期細胞接着も0.25Mでの処理において最も高い接着量を示したこ とから、細胞接着量は吸着されたフィブロネクチンの量と関連していることが示された。本研究の結果は、チタンの表面電荷を変化させることにより、チタン表 面と細胞外タンパクの直接的な電気的相互作用を与えることができる可能性を示した。本研究は、より確実な骨組織および軟組織によるインプラント表面の封鎖 のために、表面電荷制御の最適化を目指すものであり、これまでの成果を論文にまとめ、ACS applied materials & interfaces (IF: 10.383)に発表した。
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