研究実績の概要 |
申請者らは先行調査研究において、摂食嚥下リハビリテーションにおける基礎訓練の中で、口腔周囲筋の運動能力の改善を目的に口唇閉鎖訓練が高頻度に行われているということを明らかにした。しかし、口腔閉鎖訓練は普及率は高いものの、その訓練方法は統一されておらず、健常値や目標値に関する検討はなされていない。本研究では、口唇閉鎖に関連する筋力と、最大舌圧、オーラルディアドコキネシスおよび全身の筋量や筋力との関連を検討を行った。 本邦で入手可能な市販の測定機器による口唇周囲の筋力測定方法は2種類ある。被検者の口唇と歯の間で把持したボタンを前方に引き抜くことに抵抗する力を測定するLip Sealing Strength(LSS)と、上下唇の間の垂直方向に作用する力であるLip Closing Strength (LCS)である。本研究では、健常者145名(男性92名、女性53名、平均年齢75.7±5.6歳)と嚥下障害患者53名(男性37名、女性16名、平均年齢75.7±9.6歳)に対して、LSS、LCS,最大舌圧値、握力、下腿周囲長を計測し、関連因子の検討を行った。口唇閉鎖力の中央値[IQR]は、健常者LSS:11.5 [9.9-14] N, LCS:11.4 [8.6-14.3]N, LSSとLCSの回帰式は LCS= 0.94X LSS + 0.6であった。嚥下障害群ではLSS,LCSともに有意に低下していた。サルコペニア群と非サルコペニア群では、LCSに有意差を認めた。LSSとLCSの値はともに、MTP、GS、CCと相関していた。LCSは骨格筋力とより密接な相関を示し、口腔領域のサルコペニアおよびサルコペニアによる嚥下障害の評価にはより有効であると考えられる。
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