研究課題
浸潤・転移は深刻な癌形質で、浸潤先端部の微小環境変化による上皮間葉転換(EMT)は大いに注目されている。近年、癌組織周囲の細胞外基質の硬さが、PI3Kなどの細胞内シグナルの活性化やEMTの誘導にて乳癌の腫瘍形成や浸潤に影響を及ぼすことが報告されており、我々も口腔扁平上皮癌周囲の細胞外基質の硬さが癌形質に影響することを見出している。このことから癌微小環境変化による癌形質への影響が予想される。しかし、口腔扁平上皮癌における分子機構は不明である。本研究では、口腔扁平上皮癌周囲の細胞外基質の硬さにより癌形質へ影響する重要な分子やシグナル経路を解明し、細胞内・細胞間シグナル連関の検討を目的とする。令和3年度は以下の研究結果を得た。①口腔扁平上皮癌の希少variantは切除後再発、頸部リンパ節と両肺に転移を来し、高Ki-67指数、分裂像数の増加、核の肥大を認めた。免疫組織化学的解析によりp63のアイソフォームであるp40の発現低下、ARL4Cの発現低下が見られた。また、YAP、5mCの発現が、周囲のSCC病巣に比べて低下していることが示された。②siRNAによる機能欠損実験により、p63発現がARL4C発現に必要であり、p63とYAP/TAZシグナルによるDNAメチル化誘導が一部確認された。これらの結果より、通常のSCCに関連する細胞内シグナル伝達経路におけるいくつかのマーカーの発現低下によりエピジェネティックな制御に変化が生じる可能性が示唆された。また、癌微小環境変化による網羅的遺伝子発現変化の検索を進め、一部それらの機能解析を行なった。
4: 遅れている
新型コロナ感染拡大予防を図るために実験時間の制約と研究計画の調整を余儀なくされた。そのため論文作成準備段階であった研究を優先して注力した。優先した研究は本研究の基盤となるものであった。また、研究に合流予定であった留学生の入国制限に伴う研究参加が遅れたため、予定を取り戻すには至っていない。次年度は研究計画の遅れを取り戻すよう調整して研究を行う。
2021-22年にかけて計画していた以下の実験及び20年に計画していた追加検索の実施に当たる。① 癌微小環境変化による網羅的遺伝子発現変化と癌形質変化の解析:Eph-ephrin群やサイトケラチン発現および関連因子の発現変化と浸潤先端部で観察される数個の癌細胞が集まった “集団浸潤”との関係性を更に検討する。網羅的遺伝子発現変化の検索結果と照合し、Eph-ephrinやCKの発現制御および関連因子の発現変化に関わるシグナル経路(上流/下流)の推定、およびその経路で重要な遺伝子候補を挙げ、Hippo-YAP/TAZ伝達経路との関係性の検索を進める。② 病理組織標本を用いた関連因子および標的候補因子の臨床病理学的検索:複数因子について免疫染色を行う。予備実験および実験①で得られた結果を踏まえ更に検討する。③ Eph-ephrinシグナルやサイトケラチン発現変化および関連因子の発現変化による癌細胞の集団浸潤機構の解明:種々の検索にて有意な変化が確認された形質転換細胞における活性化シグナル経路を追加検索する。④ Eph-ephrinシグナルやサイトケラチン発現調節および関連因子の発現変化による癌形質変化のin vivo評価
新型コロナ感染拡大予防を図るために実験時間の制約と研究計画の調整を余儀なくされた。そのため本研究の基盤となる論文作成準備段階であった研究を優先して注力した。また、研究に合流予定であった留学生の入国制限に伴う研究参加が遅れたため、予定を取り戻すには至っていない。よって、2020-21年度に計画していた①癌微小環境変化による網羅的遺伝子発現変化と癌形質変化の解析と③ Eph-ephrinシグナルやサイトケラチン発現変化および関連因子の発現変化による癌細胞の集団浸潤機構の解明に関する研究の一部を2022年度に移行させ、研究計画を調整して研究を実施するために次年度へ予算を移行させた。
すべて 2022 2021
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