研究実績の概要 |
免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法は,臨床で用いられているが奏功率は十分とはいえない.原因として,CD8+ T細胞の腫瘍局所の浸潤抑制が挙げられる.我々はT細胞の浸潤抑制が,腫瘍組織で産生されるケモカインを切断する酵素, DPP4が関与し,IFN誘導性ケモカインの生理活性を不活化の可能性を考えた.本研究では,マウスモデルのDPP4に対するIFN誘導性ケモカインの切断感受性の違いが抗腫瘍作用に影響を及ぼすのか検討する. 1)ケモカイン発現細胞株の腫瘍形成:マウス扁平上皮癌細胞SCCVIIにCXCL9 (Mig), CXCL10 (IP-10), CXCL11 (I-TAC)の発現ベクターを遺伝子導入し,安定発現細胞株を作製し,ヌードマウスに移植後,腫瘍形成に対する影響を検討した.その結果,empty vector 導入株 (NC群)と比較してケモカイン安定発現細胞株,特にCXCL9及びCXCL11安定発現細胞株で顕著な腫瘍形成の抑制が認められた.一方,CXCL10発現細胞株では腫瘍形成の抑制は認められなかった. 2) マウス腫瘍組織におけるNK細胞マーカーCD161および血管内皮細胞マーカーVEGFの免疫組織学的検討:CXCL9,CXCL11,を発現した腫瘍組織では, VEGFに対する陽性反応性は,SCCⅦおよびNCに比較し低下が観察された.一方, CD161(NK1.1)の発現はCXCL9,CXCL11を発現した腫瘍組織においてSCCⅦおよびNCに比較して陽性反応性の増加が観察された. 3)腫瘍関連マクロファージのマーカー遺伝子の検討: M1マクロファージのマーカーNos2とM2マクロファージのマーカーArginase-1 (Arg-1)の転写レベルについて腫瘍組織からtotal RNAを調製し,遺伝子発現をリアルタイムPCR を用いて検討した.その結果,CXCL9およびCXCL11発現細胞株を移植したマウスの腫瘍組織において,Arg-1の有意な減少が観察された.Nos2は有意な差は認められなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
T細胞が欠損しているヌードマウスにおけるIFN誘導性ケモカインの抗腫瘍作用の違いについて検討した結果,DPP耐性ケモカインの抗腫瘍作用はNK細胞ならびに血管新生の抑制によるものであることが明らかとなった.一方,DPP感受性ケモカインであるCXCL10 (IP-10)は,NK細胞の浸潤が認められないだけでなく血管新生抑制作用も失われていることが明らかとなった.また腫瘍関連マクロファージは,DPP耐性ケモカインによる抗腫瘍作用が認められた腫瘍組織にはM2マクロファージのマーカーであるArg-1の発現低下が認められた.しかしM1マーカーであるNos2の発現については有意な差が認められなかったことから現在,他のM1-マクロファージマーカーについても検討中である.
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今後の研究の推進方策 |
今後の予定としては,DPP4によるIFN誘導性ケモカインの不活化による抗腫瘍活性の抑制機構について,野生型C56BL/6マウスモデルを用いたin vivoでの解析を行う.さらに口腔扁平上皮癌症例(口腔扁平上皮癌の診断を得た1次症例)についてDPPの発現と浸潤リンパ球の動態ならびに臨床的背景との関連性について検討する予定である.1)DPP4の発現が腫瘍局所へのリンパ球浸潤へ抗腫瘍作用に影響するか?抗DPP4/CD26抗体を用いた免疫組織化学的にDPP4発現細胞を同定する。また上記ケモカイン安定発現細胞株を移植した近交系マウスの腫瘍組織に浸潤しているCD4陽性、CD8陽性T細胞ならび腫瘍関連マクロファージマーカーの動態についても免疫組織化学的に検討する。 2)DPP4阻害薬の投与によるIFN誘導性ケモカインの抗腫瘍作用が増強するか?マウス腫瘍モデルにおいてDPP4阻害薬(シタグリプチン: Sitagliptin)を投与することより腫瘍組織へのリンパ球の浸潤が増加し、CXCL10の抗腫瘍作用が回復できるか検討する。
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