研究課題/領域番号 |
20K10111
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
KA 井上 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (90302877)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | TGF-β / 口腔がん / ヘパラン硫酸プロテオグリカン |
研究実績の概要 |
口腔扁平上皮がん細胞は、がん微小環境に豊富に存在するtransforming growth factor-β(TGF-β)により悪性度の高い浸潤性の間葉系細胞へと分化転換し(上皮間葉移行)、遠隔臓器へと転移する。また、がん細胞表面やがん微小環境に存在するヘパラン硫酸プロテオグリカンは、その多岐にわたる種類や機能の多様性が明らかになり、注目を集めている。特に、ヘパラン硫酸プロテオグリカンはがんの悪性化に重要な役割を果たし、がんの浸潤・転移を促進することや、多数のヘパリン結合性成長因子やTGF-βを含む様々なサイトカインなどと相互作用し細胞増殖を制御することが示唆されている。しかし、がんの悪性化に伴い上皮間葉移行及びがん細胞増殖におけるヘパラン硫酸プロテオグリカンの連関を司る分子機構はいまだに不明な点が多い。本研究では、口腔がんの悪性化に伴う上皮間葉移行におけるヘパラン硫酸プロテオグリカンの関与の分子機構を解明することを目的としている。コアタンパク質の分子種、ヘパラン硫酸鎖の糖鎖の生合成、硫酸化修飾の多様性なども考慮する。TGF-βで刺激した口腔がん細胞を用いてRNAシーケンシングの解析を行い、TGF-βの刺激によって変動する因子を抽出した。また、公開データベースを用いて、頭頚部がん患者の予後との関連性について検討した。その結果、複数の予後不良因子の候補を見出した。現在、それらの因子の欠損細胞の樹立を進めており、それを用いて上皮間葉移行、及びがん細胞増殖への影響を検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
口腔がん細胞においてTGF-βの刺激により複数のヘパラン硫酸プロテオグリカンが変動する可能性が示唆されている。このことから、TGF-β刺激をおこなった口腔がん細胞を用いたRNAシーケンシングの解析を行った。この解析結果により複数のヘパラン硫酸プロテオグリカンのコアタンパク質、及びその生合成酵素が変動していることが示唆された。ヘパラン硫酸プロテオグリカンは、これまでに口腔がん以外のがんにおいて上皮間葉移行及び細胞増殖を制御することが示唆されていることから、今回の口腔がん細胞でのトランスクリプトームの解析結果を用いて、口腔がんの上皮間葉移行、及び細胞増殖の制御因子となるヘパラン硫酸プロテオグリカンの候補分子種を探索した。さらに、公開データベースを用いて候補分子種と頭頸部患者の予後の関連性を解析した。その結果、口腔がんの予後に相関する複数のヘパラン硫酸プロテオグリカン関連遺伝子の抽出に成功した。現在、候補分子種の発現変動による上皮間葉移行の誘導及び細胞増殖に対する効果を検討するために、候補分子種の遺伝子欠損細胞を樹立する準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、以下の実験を行う。①引き続き公開データベースの解析をおこない、ヘパラン硫酸プロテオグリカン関連分子の中から頭頚部がん患者の予後不良因子を探索する。②口腔がんの悪性化との関連することが予想されるヘパラン硫酸プロテオグリカン関連の候補遺伝子の欠損細胞を樹立する。欠損細胞を用いてin vitroレベルで運動・浸潤に転移への関与を検討する。③欠損細胞を用いてRNAシーケンシング法による網羅的解析を行う。その結果からヘパラン硫酸プロテオグリカン関連の口腔がん悪性化誘導の候補遺伝子とその下流の実行因子の同定を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題に重要なステップである、ヘパラン硫酸プロテオグリカン関連の口腔がん悪性化因子候補の遺伝子欠損細胞を樹立するため試薬及び樹立した細胞のキャラクタリゼーションが必要となっている。また、計画の③では欠損細胞を用いた新たなRNAシーケンシング解析の経費が必要である。さらに、共焦点顕微鏡が設置されている本学共同実験設備の分析機器使用料のための経費が必要である。
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